4章 占拠された街

4-1

エドガー平原を進む中、ワッフルに乗るジュン達の目に、見覚えのある建物が飛び込んできた。


「あれは…舟堀タワー!」


「え?ジュン、この建物を知ってるの?」




舟堀タワー――それは水江駅から電車で2つ先の駅にある建物で、ジュンが暮らしていた地域の象徴的な存在だ。役所の手続きや日常の買い物など、地元住民にとって欠かせない場所でもあった。


「まさか、この異界で舟堀タワーを見るなんて思いもしなかったよ」


ジュンの声には驚きと懐かしさが入り混じっている。


「へえ、ジュンの住んでいた異界の建物だったんだ。近くで見ると本当に高いね」


「うん、上から見る景色はすごく綺麗なんだよ」




舟堀タワーが見えたということは、リフィリア王国はもう目と鼻の先だ。ハイゴブリンとの戦いで予定より時間がかかったが、ようやく戻ってこれたことで、ルイーザも胸をなでおろした。


「あの建物がある街を越えれば、リフィリア王国に到着よ」


「リフィリア王国か。ルイーザの故郷だよね?どんなところなんだろう」


「すごく良いところよ。王国に戻ったらまず報告を済ませて、それから……そうね、西の方に行ってみたいわ。私もまだ行ったことがない場所があるの」


「それもいいね」




ジュンにとっては、どこへ行こうと新しい場所ばかりだ。未知の世界を探るという意味でも、ルイーザが知らない土地のほうが新たな発見があるかもしれないと感じていた。


「あ、街が見えてきたよ」




ジュンが目にしたのは舟堀の町だった。高校時代の友人がこの辺りに住んでいたことを思い出すが、この異界に来て以来、知り合いと再会したことは一度もない。だが、何となく今回は知っている誰かに出会えそうな予感がした。




しかし、街に近づくにつれてジュンの目に奇妙な光景が映り込む。見覚えのない関所のような施設が街の入口を塞いでいたのだ。


「あんなの、前はなかったよな?」


リフィリア王国から来たルイーザも首をかしげる。


「私が出国した時には、あんな建物はなかったけど……何なのかしら」




関所らしき建物の近くにワッフルを止めると、入口に立つ二人の男がジュンとルイーザを遮った。


「待て。ここから先は許可なく通行することはできない」


「は?誰に許可を取ればいいのよ?こんな建物、この間までなかったじゃない!」


「今、この街は我々のボスの管理下にある」




ジュンとルイーザの頭に疑問符が浮かぶ。


「管理下って……まさか、街を乗っ取ったってこと?」


「どう解釈しようと構わない。ただ、この街の住民たちの命運は、我々が握っている」




つまり、人質を取って街を支配しているというわけだ。




「目的は何なの?」


ルイーザが険しい声で尋ねるが、男は肩をすくめて薄笑いを浮かべた。


「目的がなければ、街を支配しちゃいけないのか?」


「はあ!?ふざけてるの?」




ジュンは相手の態度に呆れる。この男たちには何の大義もなく、ただの悪意と欲望だけで街を支配しているようだった。


「どういうわけだ。怪我をしたくなければ、大人しく引き下がれ」




苛立ちを覚えながらも、ジュンとルイーザはその場を離れることにした。


「……どうする?」


「このまま引き下がるわけにはいかないわね」




二人の視線は自然と街の方へ向いた。新たな危機に直面し、彼らの次の行動が問われていた。

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