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「おい、起きろ、クルール」


机でぐったりしていたところにウルフが現れた。


昨日の書類整理が夜遅くまでかかったせいで、まだ眠気が残っている。




「ウルフか……今日は会う予定なんてあったか?」


「会う予定はないが、もう昼だぞ。いつまで寝てるんだ?」


「おっと、すまん。だいぶ寝てしまったようだな……って、ウルフが何でここにいるんだ?何か約束でもあったか?」


「いや、約束があったわけじゃないが、大変だ。昨日、平原に現れたゴブリンの集団が倒されたそうだ」


「は!?その問題、もう解決したのか?」


「ああ。俺のギルドで調査依頼を出したんだが、ちょうどボスらしきモンスターが倒されたと報告を受けた」




クルールは一瞬安堵するも、すぐに違和感を覚える。




「倒されたんなら良かったじゃないか。わざわざ俺のところに来る必要はないんじゃないか?」


「まあな。ただ倒された、軍団は壊滅した、という報告だけなら来なかったが……問題はその倒されたボスについてだ。調べたところ、普通のモンスターじゃなかった」


「普通じゃない?どういうことだ?」




ウルフは顎に手を当てながら説明を始めた。




「報告によると、そのボス――ハイゴブリンは火を吐いたらしい」


「ハイゴブリンが火を吐く……?聞いたことがないな」


「そうだ。調べた結果、そいつにはドラゴンの血が混じっていたらしい」




クルールの表情が険しくなる。




「ドラゴンの血……つまり改造されたハイゴブリンということか?」


「ああ。しかも通常のハイゴブリンよりも遥かに強い」




ウルフの説明では、通常のハイゴブリンがレベル4程度だとすると、この改造ハイゴブリンはレベル6に相当する。


それは、冒険者として十分な経験を積んだギルドリーダー級の実力に匹敵する強さだ。




「そんなゴブリンを倒してしまうとはな……一体誰がやったんだ?」


「それが、下級職を持つ小さな探検隊の者たちだそうだ」


「ほう……将来が楽しみな奴らだな」




ウルフは口元に笑みを浮かべながら続けた。




「報告によると、大きな一角獣に乗った2人組で、大剣を使う男と魔力を込めた弓を操る女らしい」


「まさか……」




クルールの脳裏に浮かんだのは、ジュンとルイーザの顔だった。一角獣は、彼らの仲間であるワッフルに違いない。


「ジュンとルイーザか」


「そうだ。あの2人が、あの改造ハイゴブリンを倒したんだ」


「だが、あの2人のレベルは――」


「レベル3だな。いや、この前の戦いでレベル4にはなったようだが、それでも通常のハイゴブリン相手でさえ厳しいだろうに……」




クルールは水江でのならず者集団の事件を思い返しながら、改めて2人の底知れない実力に驚く。




「やっぱりあの2人は大物になるな」


「ああ、将来が楽しみだ」




しかし、話はそこでは終わらなかった。ウルフは表情を引き締め、本題に戻る。




「2人の成長も楽しみだが、問題は誰がその改造ハイゴブリンを作ったか、だ」


「目星は立っているのか?」


「確証はないが、恐らくギガロに関係する連中だろう」


「ギガロか……奴らならやりかねん」




ギガロは、この異界における最も不穏な勢力の一つだ。彼らの目的も行動理由も謎のままであり、その存在自体が異界全体に不安を広げている。




「はぁ……書類仕事だけでも忙しいのに、また厄介ごとか」


「ギルド長も楽じゃないな」




クルールとウルフは共に溜息をついた。


彼らに休みが訪れるのは、まだまだ先の話になりそうだ。

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