2
「おい、起きろ、クルール」
机でぐったりしていたところにウルフが現れた。
昨日の書類整理が夜遅くまでかかったせいで、まだ眠気が残っている。
「ウルフか……今日は会う予定なんてあったか?」
「会う予定はないが、もう昼だぞ。いつまで寝てるんだ?」
「おっと、すまん。だいぶ寝てしまったようだな……って、ウルフが何でここにいるんだ?何か約束でもあったか?」
「いや、約束があったわけじゃないが、大変だ。昨日、平原に現れたゴブリンの集団が倒されたそうだ」
「は!?その問題、もう解決したのか?」
「ああ。俺のギルドで調査依頼を出したんだが、ちょうどボスらしきモンスターが倒されたと報告を受けた」
クルールは一瞬安堵するも、すぐに違和感を覚える。
「倒されたんなら良かったじゃないか。わざわざ俺のところに来る必要はないんじゃないか?」
「まあな。ただ倒された、軍団は壊滅した、という報告だけなら来なかったが……問題はその倒されたボスについてだ。調べたところ、普通のモンスターじゃなかった」
「普通じゃない?どういうことだ?」
ウルフは顎に手を当てながら説明を始めた。
「報告によると、そのボス――ハイゴブリンは火を吐いたらしい」
「ハイゴブリンが火を吐く……?聞いたことがないな」
「そうだ。調べた結果、そいつにはドラゴンの血が混じっていたらしい」
クルールの表情が険しくなる。
「ドラゴンの血……つまり改造されたハイゴブリンということか?」
「ああ。しかも通常のハイゴブリンよりも遥かに強い」
ウルフの説明では、通常のハイゴブリンがレベル4程度だとすると、この改造ハイゴブリンはレベル6に相当する。
それは、冒険者として十分な経験を積んだギルドリーダー級の実力に匹敵する強さだ。
「そんなゴブリンを倒してしまうとはな……一体誰がやったんだ?」
「それが、下級職を持つ小さな探検隊の者たちだそうだ」
「ほう……将来が楽しみな奴らだな」
ウルフは口元に笑みを浮かべながら続けた。
「報告によると、大きな一角獣に乗った2人組で、大剣を使う男と魔力を込めた弓を操る女らしい」
「まさか……」
クルールの脳裏に浮かんだのは、ジュンとルイーザの顔だった。一角獣は、彼らの仲間であるワッフルに違いない。
「ジュンとルイーザか」
「そうだ。あの2人が、あの改造ハイゴブリンを倒したんだ」
「だが、あの2人のレベルは――」
「レベル3だな。いや、この前の戦いでレベル4にはなったようだが、それでも通常のハイゴブリン相手でさえ厳しいだろうに……」
クルールは水江でのならず者集団の事件を思い返しながら、改めて2人の底知れない実力に驚く。
「やっぱりあの2人は大物になるな」
「ああ、将来が楽しみだ」
しかし、話はそこでは終わらなかった。ウルフは表情を引き締め、本題に戻る。
「2人の成長も楽しみだが、問題は誰がその改造ハイゴブリンを作ったか、だ」
「目星は立っているのか?」
「確証はないが、恐らくギガロに関係する連中だろう」
「ギガロか……奴らならやりかねん」
ギガロは、この異界における最も不穏な勢力の一つだ。彼らの目的も行動理由も謎のままであり、その存在自体が異界全体に不安を広げている。
「はぁ……書類仕事だけでも忙しいのに、また厄介ごとか」
「ギルド長も楽じゃないな」
クルールとウルフは共に溜息をついた。
彼らに休みが訪れるのは、まだまだ先の話になりそうだ。
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