3章番外編 始まりの予感

1

エドガー平原に、ある日突然大量のゴブリンの群れが出現した。その群れは、まるで軍隊のように統一された動きを見せているという。異常な報告はすぐに水江の街に届けられ、ギルド長のクルールの耳にも入った。




「ゴブリンの軍団か……気になるな」




通常、ゴブリンのような低級モンスターはまとまった行動を取ることがない。仮に群れを率いるハイゴブリンがいたとしても、ここまでの統率力を持つのは異例だ。何か異常な要因が絡んでいるに違いない。




「討伐依頼を出すか、それとも調査依頼を優先するべきか……」




クルールは考え込む。時間が許せば、自ら調査に乗り出したいところだが、ギルド長という管理職の役目がそれを許さない。特に今は、ジュンとルイーザが先日水江の街で起こした賊討伐事件についての報告書作成に追われている最中だ。




「あの2人をもう少し街に引き留めておけばよかったか……」




ふと、彼らの顔が頭をよぎる。旅立つ前に、もっと仕事を与えるべきだったのではないか。あるいは、急いで戻ってこいと伝えるべきかもしれない。しかし、再び考え直す。自由な冒険者に対して、それは筋違いだろう。




「悩んでも仕方がないな。まずはこの書類の山を片付けて、必要なら一度平原の様子を見に行こう」




クルールは目の前に積まれた書類を改めて見て、筆を取った。作業に没頭しつつ、自然とジュンとルイーザとの出会いを思い返していた。




ルイーザとの出会い


彼女がギルドにやってきたのは、異界について調査をしていたからだ。誰が吹き込んだのか、「クルールに会えば情報が得られる」と聞いたらしい。この異界が何のために、誰によって作られたのか。それはクルールにとっても謎だらけで、ギルドで長く働く彼ですら明確な答えを持っていなかった。それでも、ウルフから聞いた話や、ギルドが世界統一を目指している現状を説明した時、彼女は驚きと共に真剣に聞き入っていた。あの表情を思い出すと、つい微笑んでしまう。




ジュンとの出会い


次に現れたのはジュンだった。ウルフの招待を受け、この水江の街と同じ異界の出身であるという。管理局の管轄外で育った彼は、ジョブシステムなどに縁はなかった。それでも、リズやウルフから学び、自らの才能を開花させた。その能力は、下級職とは思えないほどのものだ。彼の出自や成長は、異界そのものの神秘を感じさせ、興味をそそる存在だった。




「そんな2人がコンビを組んで探検隊になったとは……面白いことが起きそうだ」




クルールは微笑む。2人の未来に期待を込めながら、再び書類の山に向き合った。




「さて……今夜も徹夜だな」




軽く肩を回してから、またペンを走らせる。その姿は、まるで楽しげに大海原を航海する船長のようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る