41話 年末はぐだくだ過ごすものだよね! 「後編」

 夜ご飯を食べ終え、とある準備の為にヤマトさんの家に向かう。玄関をコンコンとノックすると尋ね人はすぐに家の中から出てきた。


 「こんばんは。雷君。」

 「こんばんは、ヤマトさん。例の件、準備お願いできますか?」

 「任せてください、一時間ぐらいで準備も終わると思うから。」

 「はい、ありがとうございます。」


 深く頭を下げて、ヤマトさんの家を後にする。


#

 家に戻ると3人は静かにソファでゴロゴロしていた。仲良さそうで何よりだ。そんな3人を見つつとあるものを手に庭に行く。


「結構荒れてるな…雪も退かさないと行けないし…。2時間で終わるかな?」


などと1人呟いて作業を始める。庭の雪を退けて、平にして、退けた雪は迷惑にならないように近くの空き地に持っていく。(村人共有の雪置き場のようになっている。)振り積もった雪は結構しっとりとしていて重く、かなり大変な作業だ。繭は別の事をしてもらっているし、3人にはサプライズなので頼めない。音羽さんと詩歌さんにも後々合流してもらう予定だけれど、態々手伝って貰うのは申し訳ない。そんな事を脳内で考えながらえっさほいさと雪を運ぶ。吐く息は白く、夜の空に消えていき、もうすぐ1年が終わるというその儚さと重なり、しみじみとした気持ちになる。この世界に来てもうすぐ1年。ただの農家として過ごしていた筈なのにあの日から、繭がやってきたその日から僕の人生は変わっていった。茶眩に緋莉、天ノ宮の皆に詩歌さんと音羽さん、そして、雪。色んな人たちに会って、色んな感情を顔に出して、泣いたり笑ったり、今まで味わった事の無いような1年だった。キャンプをしたり、豪華なホテルに泊まったり、ヤマトさんにも色々と迷惑をかけた。ふと、ヤマトさんがよく言っていた事を思い出す。


「人は誰しも誰かに迷惑をかける生き物です、だけど、それ以上の幸せを、喜びをその人にも、色んな人に与える事ができるのも人間です。失敗なんて誰でもする。だから、それを謝るんじゃなくて、それを気持ちで、行動で返してあげるのが1番だと私は思います。」


少し、涙が出てきた。思い出し泣きとでも言うのだろうか、本当に、幸せな1年だった。でも、今泣いていると、この先の予定で、もっと大変になるだろう。だから、涙をこらえて作業を続ける。


1時間弱で仕事は終わった。ヤマトさんから準備が出来たと言われたので、音羽さん達に声をかけてから3人を外に呼ぶ。先に寒い事を伝えていたので、モコモコの服に包まれた3人の可愛い子供が玄関からでてきた。


「3人は、ここ座ってくれるかな?」

「はい!」


庭に置いたベンチの様なものに3人を座らせ、僕は最後の準備に入る。マッチに火をつけ、そして―――

雲ひとつ無いダイヤモンドの煌めく夜空に1輪の華が咲いた。いつか見た、あの華が。あの時と同じ人と同じものを見れる喜びを味わう。次々と咲き乱れる華々を見て、夜空に瞬く星々を眺めて、そして、横に座る繭を見た。その横顔は淡いオレンジ色に染まり、とても綺麗だった。花火綺麗だね、なんて問いかけられれば、君の方が綺麗だよ。なんて言ってしまいそうなくらいに。それくらい、繭は綺麗だった。頬が染まるのを自覚しつつ見とれていると、繭もこちらを見る。その顔は微笑んでいて、涙を流した。繭がゆっくりと口を開く。


「綺麗…だね。花火も、この世界も。」

「そうだね…綺麗だよ、この世界の全部が。」

「私、この世界で雷にあえて本当に良かった。また君と巡り会えて本当に…良かった。」


涙を流しながら繭は僕に抱きつく。驚き照れつつもそれを受け入れ、優しく抱き締め返す。


「僕も、繭にまた会えて良かったよ。」

「ありがとう…雷。」


僕達は花火が全て打ち終わるまで抱きしめあっていた。そして、ドーンと最後の華が散る。抱きしめ合っているその腕を緩めて繭の顔を見る。涙と照れで目も頬も赤く染まっている。繭と目が合う、互いに逸らすことなく、その距離だけが縮まっていく。そして、僕達は淡く優しい口付けを交わした。



#

花火も終わり音羽さん達を含め全員で家に戻る。そして、用意していたサプライズが始まった。暗い部屋の中には、予め用意していた誕生日ケーキが置いてある。そう、今日は緋莉と茶眩の誕生日なのだ。何も知らない2人は今から何が起こるかなんて知らずに暗いな〜なんて呑気なことを言っている。全員が部屋に入った事を確認して、電気をつけた。予め持っていたクラッカーをならし、


「誕生日おめでとう!茶眩!緋莉!」


いきなりの事に脳が追いつかず。ポカンとしている時2人、暫くその状態が続いてから、


「ありがとう!おにぃ!おねぇ!」

「ありがとうございます!お兄さん!お姉さん!。」


涙を浮かべて言う2人、心から嬉しそうで僕も嬉しくなってくる。2人でロウソクの火を15本消す。ハッピバースデーと歌を歌いながら、ケーキを切り分け、それを食べる。甘いイチゴの乗ったショートケーキは天使さんに作ってもらった特別なケーキだ。口の中でとろけるスポンジとクリーム、甘すぎず丁度いい甘さのこのケーキに癒される。

ケーキを食べ終え、3人は寝てしまった。東雲さん夫婦も家に帰ってしまったので、繭と2人っきりだ。さっきの事もあってちょっと気まずい。


「あのさ…花火の時の事なんだけど…。」


そう繭に話しかけられ、心臓がドキリと跳ねる。


「ごめん…。嫌だったよね…。」

「いや…大丈夫というか…嬉しかったというか…。」


最後になるにつれて声が小さくなって、最後は全く聞こえなかったが、嫌じゃなかったのなら、それなら僕も嬉しい。そしてまた、静寂が訪れる。頭の中では明日大晦日だな、とか色々考えているがそれを言葉にする事は出来なかった。


「そろそろ寝よっか。おやすみ、雷。」

「うん、おやすみ。繭。」


そう言って寝室に行き、布団にくるまる。明日の事や初日の出の事を考えながら目を瞑る。幸せを感じながら暖かい毛布にくるまれ、夢と現実の狭間を揺蕩う。繭はもう寝ているのかすーすーと寝息を立てている。それを聴きながら僕もそのまま眠りについた。


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