42話 大晦日と初日の出 【前編】

 差し込む朝日に目を覚ます。その暖かな日差しは冬に似つかなく、春のような陽気さを感じさせる。今日は大晦日、一年の締めであって新たな一年の始まりとなる日でだ。いまだに緋莉達と繭はすやすやと幸せそうに寝ていて起こすのはかわいそうなので静かに寝室を後にする。キッチンに行き、棚からコップを取り出す。それに珈琲を注ぎ、牛乳と混ぜ一気飲みする。乾いた喉が一気に潤いを取り戻し、珈琲牛乳の冷たさと合わさって未だほんの少し眠たかった目が冴える。そして、きょうもいちにちがんばるぞい!と言わんばかりにやる気がわいてくる。ゲーム作らないし出社もしないし何なら仕事自体しないんだけどね…。そんなことを考えながらコップに2杯目の珈琲牛乳を注ぐ、二杯目はちびちびとゆっくり味わうように飲む。うん、美味しい。三杯目は珈琲の割合を多めにして飲む。少し苦い感覚が口の中に広がった後に、牛乳の優しい甘みが広がる。完璧だ。これで何時でも秀吉にお茶をふるまえる。現代の石田三成とはこの僕のことですね…!などとくだらない妄想が頭の中を飛び交っている。

 謎の高テンションで一人盛り上がっていると、一人分の人影がキッチンへ訪れる。


 「雷、おはよう」

 「おはよう、繭」

 「今日暖かいね、日差しもいいし。」

 「そうだね、出かけるのにぴったりだし今日もどっか出かけるか。」

 「うん。そうする。楽しみ」


 笑顔でリビングへ向かう繭を見つつ朝ごはんの用意を用意をする。と言ってもお茶碗に炊き立てのご飯をよそって、目玉焼きを作るだけなんだけれど。って言っても僕にとってはこの作業だけでもかなり大変だ。毎日料理作ってくれてる繭に感謝しないとな…。心の中でありがとうと呟きながらフライパンに卵を落とす。ジュージューといい音がなっているのを聞きながら塩と胡椒をかけ、半熟になったところでお皿に盛りつける。これが繭の一番好きな味付けだから。出来上がったそれとご飯をトレイに乗せ、リビングへもっていく。リビングでは、繭がソファに座ってうつらうつらと船を漕いでいた。トレイをテーブルに置き、繭の隣に座る。軽く肩をトントンと叩くと、


 「んぅ…?」


 と曖昧な返事をして目を擦りながらゆっくり開く。


 「朝ごはんの準備できたよ」

 「ありがと。」


 二人一緒に向かい合うように椅子に座る。


 「いただきます。」


 声を合わせてそう言い、ご飯を食べる。温かいご飯は心まで温め、リビング全体がほんわかとした雰囲気に包まれる。繭もこちらを見ながら少し微笑んでいて嬉しそうな表情をしている。そんな表情を見ながらご飯を食べていると、繭の箸が止まった。口の中に入っているご飯をもぐもぐと飲み込んでからゆっくりと口を開く。


「そういや…今日って大晦日だよね?」

「うん、そうだよ。」

「初日の出、どうしよう?」

「近くに神社あるし…そこで見ない?」

「そうだね、頑張って起きてないと…!」


ご飯を食べ終わった僕はキッチンへ食器を片付けに行く、繭は終始嬉しそうで見ている僕も嬉しくなる。繭も食べ終わったらしく、食器を持ってきた。それを受け取って洗う準備をする。その間に繭には3人を起こして貰う事にした。ジャーっと冷水を流してお皿を洗う、洗剤もしっかりつけて仕上がりにきゅきゅっとなればオーケーだ。ふんふんふーんと鼻歌を歌いながらお皿洗いしていると、3人が寝室からやってきた。もこもこのパジャマに身を包まれあったかそうだ。


 「おはよう」

 「おはようございます!」


明るい挨拶を交わし、3人はリビングへ向かう。3人はパンが好きなのでトーストに蜂蜜を塗ってお皿に乗せる。それを3人のところへと持っていく。おいしそうに頬張る3人を見ると嬉しくなってくる。それを見ながらお皿洗いを再開する。単純な作業だけどそれなりに楽しい。単純だからこそノリノリで作業できるのだ。ふんふーんと鼻歌を歌いながらお皿洗いをしていると、繭がやってきた。


 「ノリノリだね」

 「楽しいからね」

 「良いね、何かそういうの。私好きだよ」

 「そう…なんだ」


 そのふとした一言に頬が染まる。自分に対してじゃないのが分かっていながら、少し照れる。ぱっと顔をそらしてそれを隠して作業を続ける。

 暫くして3人が食べ終わってお皿を持ってきたのでそれも片づけ、リビングの椅子に座り読書を始める。最近買った本であらすじに惹かれ買ったものだ。予想通り内容は面白くどんどんと読み進められる。100ページほど読んで顔を上げると時計の針が1時間分動いていた。結構経ったな、なんて思いながら腰を上げる。ずっと下を向いて本を読んでいたせいで腰も首も痛い。そろそろ10時くらいになるので、3人を天ノ宮に送らないとなーなんて考える。だから繭のところに行って話すことにした。


 「ねえ繭、そろそろ3人を天ノ宮に送らないとまずいんじゃない?」

 「そうだね、じゃあついでに私たちも天ノ宮行かない?」

 「良いね。じゃあ話してくるね。」

 「うん、よろしく」


 そういって3人のところに行く。楽しそうに話している所にこの話をするのは寂しいし辛い、だけど時間もないのも事実、覚悟を決めて僕は口を開く。


 「ねえ、そろそろ天ノ宮に帰らないといけない時間なんだよね…」

 「そう…なんだ。わかった。じゃあ帰る準備してきますね」


 かなりの罪悪感を胸に、僕も天ノ宮へ行く準備に向かう。久ぶりに会えて楽しかったな、なんて思いながら目に涙を浮かべて。

 


 


 

 



 

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