勿忘草に口づけ

「財務大臣が騙された　あの事件ですか」

「ええ　さようでございます」

わたしは　息を飲んで十字を切りました

「詐欺師は捕まり　処刑されましたが

　金貸の方は　投獄されただけにございました」

彼の女性は　さも残念そうに言いました

「何故だかお分かりになりますでしょうか？」

そして　またも声を潜ませて

「あの伯爵様が手をお回しになったのです」

どうにもならない理不尽さを非難するように

「大臣様は　伯爵様の政敵でいらっしゃいましたから

　勿論　伯爵様が謀ったことは表ざたには・・・・」

わたしは　ここまででも何度十字をきったことか

とんでもない告白に　胸が高鳴るばかりで

司祭様は　天を仰ぎ 深く瞼を閉じられました

「わたくしは　確かに　見たのです 聞いたのです

　あの詐欺師と金貸が話をしているところを

　悪だくみをしているところを　でございます」