02-abuse(4)
鈍い音を立てて扉が開く。珍しい物でも見るような表情を浮かべたのは
「呼んでないのに来た……」
「悪い? じゃあ帰ろうか?」
「まって、ごめん、
「興味深い、事件があったよ」
コトリとカウンターに置かれたのは、玖須の愛用する端末。そこに映し出されていたのが、興味深い『一家惨殺事件』の情報だ。なにこれ、と栖田が聞けば、玖須は画面の一部を拡大させる。
そこには、それを行ったのが子供五人組であることが記されていた。そして、長男は一命を取り留めている。でも、記事によると事件は四年前の二月五日。もし、この長男が『悪ガキ殺し』だったとしたら、その四年間の空白は……
「よくわかんないな……
名前を知ったところで、この街では本名を誰にも知らせていないだろう。いつかの財布の持ち主のように、簡単に調べがつく場合もあるが、これだけの殺人をこなす人間がこの街でなんの細工もしていない訳がない。自分の正体を隠す術がこの街にはあるのだ。他の街では犯罪に分類されるものではあるが。当然のように、『悪ガキ殺し』もその術を使って生活しているのだろう。
それが分かっていても、いや、分かっているからこそ、彼は悔しいと思うのだろう。他の街ならきっと、名前が分かれば接触する術もあるのだろうと。
「玖須、この榛名さん家の長男のこと、調べられたりしない?」
「んー、いくらで?」
「金とる気? がめついな。ここではタダで好き勝手飲んでいくクセに」
そんな風に返しながらも、
「特別にまけてあげるよ」
そう言って、重そうに扉を開けて去る。マイペースさでなら誰にも負けないような玖須であっても、今回の事件には思うところがあったのだろう。それに向き合っている栖田に対しても。
珍しい、と呟いた栖田は少し嬉しそうに見える。
少しすると鈍い音がして、また扉が開いた。入ってきたのは、
「あぁ、戸端くんも来たの」
「連れてきたんだけど……なんか建物の前に来ると、急に入る気無くなるらしいんだよね」
「お手数おかけして申し訳ないです……」
戸端の様子は、笛地から見ていつも通りに戻ったように思えた。しかしそれでも、昨日の違和感を忘れられないのだろう。警戒心が解かれているようには見えない。そして、戸端にはその警戒心に気づいた様子はない。
「
「来る、とは思うんだけど。あの子もマイペースだからね」
栖田は、戸端に紅茶、笛地に珈琲を用意して椅子に腰を下ろす。自分は水を飲みながら無武を待つ。
待っている間は、戸端の仕事失敗談で盛り上がる。
そして数十分後、いつも通りの鈍い音を立てて扉が開く。その音に振り向いた戸端に駆け寄ったのは無武で、顔を近づけると小さな声でこれはこれはと笑う。
それに反応した戸端は顔色を変え、無武を押しのけ走る。力いっぱい扉を開くとあっという間に姿を消した。
「どういうこと」
「お互い、野生の勘がよく働いちゃった感じかな」
「お互いって……」
戸端が座っていた席に今度は無武が座る。そして、また牛乳を強請った。短い返事の後、牛乳瓶が目の前に置かれるとまた一気に飲み干す。よくお腹壊さないね、と笛地が顔を顰めた。頼まれる前に栖田がもう一本を用意すると、ようやく無武が何かを話す準備をしたように見えた。
「血、の匂いがしたよ。上手く洗い流してるみたいだけど、あれの匂いは簡単に落ちない。彼は無意識下で、それを見つかったことに気づいて逃げたって、ところじゃないかな」
「
「そうだね、確かに。そっちの方はまだ確かめ足りないかな。でも、これで彼に何かがあることは分かったでしょ」
二本目の牛乳を飲み干す。そして立ち上がると、またパトロールには不参加だと伝え、去っていく。その後ろ姿を呆然と見送った
「戸端くんのこと、尾行、できる?」
「……やってみるよ」
普段の戸端相手であれば、簡単なことであるはずだった。
「こっちも近くにはいるつもりだから」
「分かった。様子を見て何かあったら知らせるよ」
そんな会話が交わされて、その日の変則的なパトロールが決まった。
「たぶん、バレたよな」
『おそらく、な。じゃあ、作戦Bでいこう』
「はしゃぐなよ、クソガキ」
『誰が。まあ、オレが若いのは事実だけど』
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