14話

『――リディがあんなに楽しそうにしているのは久々に見た』


 屋敷の去り際。

 そう言ってアドラシオン様が、持ちきれないくらいのパンや果物を渡してくれたのは良い。

 とても助かるし、正直ありがたいことである。


『また来るがいい。お前なら歓迎しよう』


 こう言ってくれたのもありがたい。

 態度はやっぱり威圧的だけど、親切にしてくれているのはよくわかる。


 だけど――。


『夜道は暗い。神殿内とはいえ、一人歩きは不安だろう。荷物もあることだし、ルフレを荷物持ちに付けてやる』


 これは余計な一言過ぎた。





 アドラシオン様の屋敷を出て、宿舎へ向かう帰り道。

 人通りも絶えた暗い夜。

 あたりを満たすはずの静けさは――今は完全に消えていた。


「――なんで俺が、お前を送って行かなきゃなんねーんだよ! 勝手に一人で帰れよ!」

「私だって頼んでないですよ! 文句ならアドラシオン様に言ってください!」

「俺がアドラシオン様に文句言えるわけねーだろ!」


 と偉くもないことを偉そうに言って、ルフレ様は「ふん!」と荒く息を吐く。

 食料の詰まったバスケットを抱えて歩く彼は、いかにも不本意そうだった。


「だいたい、お前なんか誰も襲わねーよ! 顔と性格考えろよ!」

「ルフレ様よりマシな性格していると思いますけどね! ご自分こそ、人に言う前に性格直したらどうですか!?」

「はー!? 俺の性格が悪いって言いたいのかよ! 本当のこと言ってるだけじゃねーか!」


 周囲に街灯はなく、空にある月明かりだけが周囲を照らす。

 この暗さの中でも、ルフレ様のまばゆい金の髪だけは鮮やかだ。

 むしろ暗いからこそ、光の神たる彼の美しさが際立って見える――が。


「図星突かれて怒ってんじゃねーよ! 性格ブス! 顔もブス!」


 見た目以外は最悪である。

 神への尊敬などすっかり忘れ、私は死ぬほど生意気な顔を睨みつける。


「図星突かれたのはそっちでしょう! 性格ブスって、その言葉そっくりそのまま返すわよ!」

「敬語忘れてんじゃねーよ! 俺は神だぞ、神!!」

「神らしく扱われたいなら、それなりの態度をとることね!」

「なんだと!!」

「なによ!!」


 ギッと互いに顔を見合わせ、少しの間。

 先に顔を逸らしたのはルフレ様だ。

 私の睨みに怖気づいた――なんてことはもちろんない。

 相も変わらずの生意気さで、彼はバスケットを抱えたまま伸びをした。


「あーあ! お前と結婚する婚約者、マジかわいそう!」


 大きな独り言のようで、当然ながら嫌味である。

 わざと私に聞こえる声で、彼は半笑いのままこう続けた。


「お前の結婚なんて、絶対うまくいかねーよ。だって男なら、もっと大人しくてかわいい子が良いに決まってるからな! 本心じゃ、さっさとお前との婚約なんて破棄して、他の子と―――」


「されたわよ」


 口から出たのは、思いがけず強い声だ。

 言葉を遮られたルフレ様が、「え」と小さく口の中でつぶやく。


 それ以上、彼の口から嫌味が続くことはない。

 驚いた様子で瞬く彼を、私は苦々しく見やった。


「婚約破棄、されたわ。……もっと大人しくて、かわいい子のおかげでね」

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