13話

「……友人ではないのか」


 そうつぶやくアドラシオン様の声は、いつも通りの淡々としたものだ。

 低く、硬質で、厳格さがある。……けど。


 ――残念そうにされていらっしゃる……?


 どこか惜しむような彼の声音に、私は瞬いた。

 相変わらずの威圧感ではあるけれど、雰囲気も、なんだか以前に見た時よりやわらかい気がする。

 特にリディアーヌに向ける目は優しくて、冷徹な神様だと思っていただけに驚きが大きかった。


 ――……こんな顔もなさるのね。


 などと、意外さに呆ける私へ、アドラシオン様は不意に顔を向けた。

 ひょえ! と声が出ても、彼は眉一つしかめない。

 どうやら優しい視線はリディアーヌ限定で、私を見る目はいつものアドラシオン様である。


「それなら、どうしてお前がここにいる?」

「え、ええとですね……」


 たぶん、責められているわけではないのだろう。

 だけど彼の冷たい視線を前にすると、知らず体が強張ってしまう。

 それでもどうにか、経緯を説明しようと口を開くが――。


「食堂の裏手で、リディアーヌが他の聖女に――――もが!?」


「――たまたま会って、空腹だからと言うから連れて来ただけです!!」


 その口を、リディアーヌの手がふさぐ。

 そのまま「もがもが!」ともがく私を引き寄せて、彼女はギッと睨みつける。


「黙っていて!」


 彼女は私の耳元で、押し殺したような――しかし、有無を言わさぬ強い声でそう言った。


「アドラシオン様に余計なことを言わないで!」

「もが! ……よ、余計なことって!?」


 どうにかリディアーヌの手をのけると、私は彼女に眉をひそめた。

 声は彼女につられ、ついつい内緒話のように小さくなる。


「アドラシオン様に言った方がいいんじゃないの? 他の聖女が、あなたに嫌がらせしていたこと」

「必要ないわ! これくらい、わたくし一人でなんとかできるもの!」

「なんとかできるって言っても……」


 正直、できる気がしない。

 アマルダと相対したときのリディアーヌを思い出し、私はますます眉根を寄せた。

 どう考えても、彼女があの場を切り抜けられたとは思えないのだけど。


「アドラシオン様はお忙しい方なの。こんな些末なことに関わっている時間はないの!」


 いぶかしむ私に、彼女は頑として首を振った。

 断固とした強い視線に、私は呑まれたように口をつぐんでしまう。


「わたくしのことは、わたくしで片付けるわ。お手を煩わせる必要なんてない」


 無言の私を見据えたまま、リディアーヌは言葉を続ける。

 妙に力んだ声は、低く、かすれて――かすかに震えていた。


「わたくしのことで、彼に迷惑をかけたくないのよ……!」


 これまでの強気なリディアーヌらしくもない。

 彼女は震える声でそう言うと、耐えるようにぐっと唇を噛みしめた。

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