37、絢爛な王子たち③

ロゼリアは再びジルコンの横に確保されている。


「彼はロゼリア姫を連れて帰ろうとしたときに立ちふさがって、、、可愛い妹をやれるはずがないとすごい剣幕で、平和な国で安穏と生きてきた世間知らずなコイツに言われて、ならお前の目で世界を見てみろと、、、」


ジルコンが請われるままにアデールの王子を連れてきた経緯を話している。

旅の途中にあなたとよばれていたものが、同年代の若者たちと話すうちにコイツに代わっている。

王子たちの中でのロゼリアは最下位に位置付けられたような気がする。

己はエールの仕立て屋の服を着て意気揚々と初日を迎える馬鹿者なのだ。

悔しいがもっともだと思う。

まだ何も始まっていないのに、ロゼリアは気おくれがする。

既に、参加することを後悔し始める自分がいる。


「妻より男を選ぶところがジルコンらしいな」


ウォラスがくっくと笑っている。

ロゼリアは一言も発せられないまま、会話の話題の中にありながら、そこにロゼリア自身がいないかのようにうわべをかすっていく。

時折、何か話せよとジルコンの視線が訴えるが、息を吸っている間に、フィンが、ノルが、エストが、話をつなぐ。


森と平野の国々に関係する者たちは遅い食事を済ませて会場入りした者も含めて、ジルコンと、青い顔をしたロゼリアの回りに集まってきていた。

繰り返される、彼らの間に囁かれる、ロゼリアを指さしてあれは誰だ?と投げられる小さな問いかけ。


彼らのほとんどが去年から続いての参加者たちである。

初参加でジルコンに紹介されたのは、ロゼリアただ一人であり、ジルコンもロゼリアもそのことに気が付きもしなかった。

彼らは気を取り直し、良く知る近隣の王子や同国の者を見つけて話をし始める。

自ら進んでジルコンの前にでて自己紹介する強者もいる。

初めての者は慇懃にジルコンに礼を尽くす。

よく知る者たちはジルコンとの親密度を周囲にさりげなくアピールしようとする。

ロゼリアは、森と平野の国々の中でまだ18のジルコンが彼らの王の如き存在であることを嫌が上にも思い知らざるを得ない。


「獣臭い奴らが来たぞ」


そう言ったのは誰だったのか。

ジルコンを取り巻く者たちは、会場に入った10名ほどの者を見た。

彼らは一様に特徴のある膨らんだ袖と襟袖口に刺繍を身に付ける。

革の腕輪、細工ベルト。

獣毛を細く裂き織り込んだ衣装。

彼らは居ながらにして草原の風を運ぶ。

馬と生きる者たちの馬の匂いなのかもしれないし、草木の香りや嗅ぎなれないスパイスの香りが混ざったもの。

エールの中で異質な存在。

会場入りしたのは草原の一強パジャンに率いられる、草原の国々の面々である。

姫らしき女もいて、男たちも女たちも、髪を後ろに一つに結んでいる。

切れ上がった目元の者が多いようである。

女の方が結ぶ位置が高い。


彼らを見て露骨に眉間にしわを寄せたのは赤毛のバルド。

体を大きく怒らせた。

そして、草原の者たちは会場の中央で陣取るエールの者たちと正面から向かいあう。

彼らが腰に差すのは反りあがった剣。


彼らの先頭には、日焼けした肌に涼し気な目元の男、パジャン国第一王子ラシャール。


いつの間にかジルコンが前にでていた。

ふたりはそれぞれの派閥を従え、互いの力量を図りあった。

ラシャールは去年も参加している。

しばらく会わないうちに、何か国元では決定的な変化や、彼自身に病気や心境の変化を起こす退廃的な何かが宿っていないか。

内乱の兆候に汲々としているのではないか、その内情を探り合う。

だが、それはほんの瞬くほどの間で終わる。


「よく来てくれた!ラシャール殿」


ジルコンは手を差し出した。

その手をがっつりと迷いなくラシャールは掴む。

ふたりは固い握手をする。


「今年も去年より多くの者を引きつれてきた。存分に学ばせてもらう!」

口元に浮かべた笑みは完璧な王子たちの笑み。

だが、二人の目は全く笑っていないのだが。


親世代の向かう先は、相手を食いつくし従えさせる弱肉強食の世界だった。

何かの拍子に二人は敵として刃を向け、命を奪い合うこともあり得る未来である。

そうなれば、相手の前に跪き、己の命、愛する者の命、民の命のために、寛大な処遇を引き出すために、泥をかぶる靴の先を舐め、キスをすることもあり得るのだ。

もしくはそれ以上の屈辱を与えられることも、与えることもあり得た。


だが、彼らはその道を避けるためにここにこうしている。

彼らは互いにとって脅威でもなんでもない。

泣きもすれば笑いもする。

侮辱されれば怒りもする。

自分たち自身と何にもかわらない同年代の若者なのである。


ほうっと、どこからともなく安堵のため息が漏れる。

彼らは歩み寄るためにここに集う。

緊張の糸が切られたのだ。




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