36、絢爛な王子たち②

一人ひとりと握手を交わし軽く言葉を交わす内に、ロゼリアはジルコンの輪から離れてしまっていた。


「あなたの国は香水が素晴らしいのですね、とてもいい香りです」

銀髪の巻き毛のウォラスはジルコンから離れてロゼリアが参加者たちと挨拶を交わすのを楽し気に眺めている。

ロゼリアは自分への挨拶の波が途切れた時に彼に言う。

ロゼリアに意味ありげにウインクを返した。

余裕のある態度。

そしてどこか退廃的な色気がただよう。


「これは香水というよりも、媚薬だよ」

「び、媚薬?」

「そう。辛気臭い勉強会の間でも、好きな子の関心を己に引き寄せ、そして心だけはいつもときめいていたいだろ」

「誰に、ときめきたくて?」


ロゼリアは会場の前に固まっている女子の方に目を向けた。

女子は男子の比ではないほど飾り立てている。

ロゼリアは心底女子でなくてよかったと思う。

女子としてあの中に、真っ赤なドレスでも着て混ざっている自分は想像ができなかった。

その中に黒髪巻き毛のジュリアの姿が際立って見えた。

女子ながらに勉強会に参加することもできたことをロゼリアは知る。

昨夜ふたりして参加してはどうかとジールの妹のジュリアは言っていたことを思い出した。

くすりとウォラスは笑う。


「ときめくのは女子にだけではないよ?ジルコンのお気に入りさん?」

一度に二つの突っ込みどころを言われてぐっとロゼリアは返答に困る。

「恋は男同士でもできるんだよ。衆道の嗜みは主従の関係を強固にするっていうだろ?君はもうジルコンのもの?」

「じ、ジルとは主従ではない」

ジルという親し気な呼び方にウォラスは意味ありげに笑う。

ジルコンをジルと呼ぶものは誰もいないからだ。

「主従関係でないなら、同盟関係かな。その絆を強固にするよ」

「アデールは中立国だ!」


ぐいぐい顔を寄せるウォラスにロゼリアはのけぞった。

いったい彼は何を言おうとしているのか。


「ウォラス!純情な男子に宮廷遊びを教えないでくれ!」

人の輪に囲まれながらもジルコンの叱責が飛ぶ。

ふたたび、その場に集まった参加者たちの視線を集めてしまった。

ウォラスはジルコンの剣幕に、腹を押さえて声をあげずに笑っている。

ロゼリアはさっそくからかわれたようである。


「なあ、アンジュ、双子の妹がいるそうだが元気になさっているのか?」

そう尋ねたのは赤毛のバルドである。

巨体をそびえさせ、ロゼリアの正面に立ち、その顔をしげしげと眺めた。

男装のロゼリアを透かして、姫のロゼリアを見ている目である。


「バルド。アデールの姫は元気だ。そして俺と結婚の約束もしている。だから、アンに取り入っても無駄だぞ?」

ジルコンの声が再び飛んだ。

「ジルコンさまに婚約者ですって?」

遠方ながらも聞き耳を立てていたらしく、女子たちの顔が一斉にこちらに向いた。

驚愕し、悲愴な叫びを上げた者もいる。


ロゼリアは穴があったら入りたい気持ちになる。

自分の王子としての役割もよく考えもせず参加した馬鹿者が、そのジルコンの正真正銘の婚約者なのである。

アンジュとしての自分がうまく立ち回らないと、ジルコンは田舎者で馬鹿者である兄に持つ姫を、哀れにも妻にしてしまうことになるではないか。


「コレがジルコンの義兄になるのか?」

朝食で同席したノルがサラサラの髪を透かし、ロゼリアを見下ろした。

ルビーの指輪のきらめく拳を握りしめている。

今度の視線は見下すだけではなくて、不吉な色を放っていたのであった。




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