25、ディーンの剣②

アヤが庭の奥へ、ロゼリアを連れて行った先には宿の利用者用の修練場があった。

ディーンの修練場よりも大きい。

既に、ジルコンの黒騎士の数名が体術の稽古をしていた。

ふたりに気を取られたジルは、組み合っていたロサンにその一瞬の隙をつかれ、その大きな体を投げ飛ばされ床にたたきつけられ豪快な音を立てた。


「よそ見しないで集中しなさいよ!」


アヤが鋭く声を掛ける。

容赦のない物言いである。

アヤはロゼリアに向き合った。

アヤの体は細い。

大きな騎士たちの中ではアヤは小さく見えたが、ロゼリアとはあまり変わらない身長である。

鋭いナイフで切り落としたかのような髪。

細い目に挑戦的な色をあからさまに見せていた。

ジルコンの黒騎士の中で紅一点。

黒騎士はジルコンが選んだという。

彼女のどこにジルコンは気に入ったのだろうかと思うと、ロゼリアの胸がちりりと痛んだ。


「王子さまは何が得意ですか?旅で体がなまっているでしょう。体をしっかりと動かしませんか?わたしでは役不足かもしれないけれど」

誘いかける言葉とは裏腹に、挑戦的で勇ましい目。


田舎の王子の鍛錬に付き合うという形をとってコテンパンにしてやるわ!

それだとジルさまも文句はいえないでしょう、とその目が男が女に負けるみじめさを味合わせたくて、暗い思惑にぎらぎらしている。

彼女は強い。

恐らく女の身で人一倍努力し、男には負けないと矜持をもつ。

王子騎士の座を実力で射止めたのだろうとロゼリアは理解する。

アデールでは女は基本武器は持たない。

女は愛でられれ、保護される対象であるからだ。


「剣」


ロゼリアがいうと、騎士の一人がロゼリアの剣をご丁寧に投げて寄越した。

宿で預けた自分の剣である。

既に準備しているとは苦笑するほど手際が良すぎだった。

彼らはアヤのように不快な態度はとらなかったが、ロゼリアに話しかけたりしなかった。

ロゼリアは彼らの王子にはりついた腫物であることには変わりはないのだ。

その正体と実力を測りかねていた。

もしくは、女のアヤにやられるところを見て楽しもうという魂胆なのかもしれない。

小さいとはいえ一国の王子が女騎士の前にひれ伏す姿はきっと痛快だろう。

ささやかな娯楽の一つなのかもしれない。


「まあ、それは真剣ではないですか。危険です」

大げさに驚いて見せ、白々しくアヤは言った。

だが、その目は嬉々として底光り薄い唇にくっきりと笑みが浮かぶ。

これはアヤだけでなくここにいる騎士たち全員を巻き込み、仕組まれた場だった。


ロゼリアが受けとると同時に、アヤは自分の剣を抜き、白刃を翻して一撃を寄越した。

抜かれていない鞘と剣がぶつかりガンと鈍い音。

ロゼリアは剣を支え、両手で衝撃を凌ぐ。

ディーンの剣の、固くなめした鞘の革をアヤの刃がぎりっと食い込んでいる。

衝撃からすると、それは遠慮のない本気の一撃だった。

肩で受けていれば肩の骨が砕けていただろう。


平和な国でなまくらに過ごしていた王子は命のやり取りをしたことがないでしょう?その目は言っている。

細身の剣越しに、それだけではない殺気がこもる。

ロゼリアが切りつけられ怪我をしても、アヤは言い逃れる言葉を既に用意しているのだろう。

もしくは、ぎりぎりまでせめて、ロゼリアを怯えさせることを主眼としているのか。


くすりとロゼリアも笑う。

丁度よかった。

彼女の思惑に乗る。

何の不満もなかった。


ジルコンを思うと浮ついて離れようとする心をこの体に縛り付けるほど真剣に、身体を動かしたかった。





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