第9話
「なんでついてきてんだ」
「いやーたまには寄っていこうかなって」
別れを告げて、帰路についていたら。
ユリウスはなぜかついてきた。
「どこに寄るんだよ」
疑問に思ったので訊く。
歓楽街は俺の家とは反対方向だ。
なのにユリウスは帰る俺についてきている。
「そりゃもちろん、サランくんの家さ」
「当たり前のようにいうな……」
ユリウスとはたまに、俺の家で酒を飲んだりする。
俺はあんまり飲めない。ユリウスはアホみたいにがぶがぶ飲める。
「まぁ、たまには良い……」
「それじゃあ今日は朝まで飲み明かそー!」
上機嫌なユリウス。
家に酒、どれくらいあったかな……。
しかし俺はハッとする。
やっべぇ今、家にレネがいるじゃん。
レネにユリウスを連れ込んだと知られれば身の危険を感じる。浮気とか許さなそうだし。
いやユリウス男やん。
こいつにバレてもめんどくさそうだな。
『あれー? 恋愛経験ゼロのサランくんが家に女の子連れ込んでるー!』
とか言いそう。
いやレネ男だけど。
もろもろやっかいそう。
こいつには帰ってもらおう。
「あー悪ぃ。今日はやっぱなしで」
申し訳なさ全開で俺が言うと。
「えぇ!? なんでだい? いつもなら即おっけーなのに!?」
めっちゃ驚かれている。
普段から家で飲むぐらいなら俺は断ったことがなかったからだろう。
今まで断る理由も驚くことになかったし。
「あーっと……あれだ、酒。酒がないんだ。今」
「ふーむいつもなら何本か置いてあるサランくんが……」
ユリウスはちょっと訝しむ。
家で飲むのを初めて断られたからだろう。
「……まさか、女でも連れ込んでいるのかい?」
なんでみょうに勘がいいんだよ。
「怪しいなぁ……僕というものがありながら浮気なんて……」
「浮気ってなんだよ。おまえと俺は友人だろーが」
「ふ……友人以上の関係でもかまわないよ……」
「冗談言うな」
「冗談じゃない。今まで僕は男女、一対九で抱いてきた」
「うわぁ……」
口に端をつり上げ、笑いながら言うユリウス。
こいつのことだからあながち嘘じゃなさそうなのが怖い。
なんか今まで二人きりでいたのが怖くなってくるな……。
怖いから早めに帰ってもらおう。
「まぁとにかく、今日は都合が悪い。仕事もあるし、はよ帰れ」
「冷たいなぁ……。まぁサランくんが断るなんて珍しいし、今日はその思いを汲んでやろう」
しぶしぶ踵を返すユリウス。
よかった。なんとか引き下がってくれた。
「そうかありがとな」
「でも次は絶対付き合ってもらうからなー!」
「はいはい」
礼を返し、ユリウスは帰っていく。
今日のお詫びとして次はなにか料理をつくっておこう。
明日はレネを家に帰さないといけないしな。
俺は我が家に着き、こっそりと入る。
店の反対、裏口から。
自分の家なのにこっそり入るというのもいかがなものか。
とりあえず自室……は今レネが使っているか。
リビングまで行かなきゃいけない。
裏口からリビングまで行くとなると、レネが今いる部屋。
その前を通らなければいけない。
こっそりこっそり通る。
ふぅ……なんとか通れた。
あとはリビングまで――。
「えい!」
「うお!?」
突然、闇の中から何かが振り下ろされた。
「えいえい!」
かけ声と共に振り下ろされる。
どれもすんでのところで俺に当たらない。
しかし俺は驚きで尻もちをついてしまった。
「えい!」
俺の脳天めがけて振り下ろされそうに――。
「ちょ、ストップ! ストップ!」
俺は声で制止を促す。
その声を聞いてか、ぴたっと止まる。
「サラン……?」
俺は持っていたランタンをつける。
「……そうだ、サランだ。レネ……か?」
「は、はい……」
どうやら俺を攻撃していたのはレネだったらしい。
手にはフライパン。あっぶな。
「す、すみません……当たっちゃいましたか?」
「大丈夫、当たってない」
掠ってすらいない。
「でもなんでこんなことを?」
フライパンもって夜中に家を歩き回る趣味なのか。
「いえ……物音がしまして」
俺がこの家に入ってきた音だろう。
「泥棒かと思ったので、とっちめてやろうと……」
「それでフライパン……」
勇気はあるが、なんとも危険。
俺じゃなかったらどうなっていたことやら。
「まぁ、家を護ってくれるのはありがたい。でもレネがケガしたら困る。から、いざというときは隠れるか逃げるかしてくれ」
「そう……ですか。次から気をつけます」
反省の意を示すレネ。
できれば自分の安全を確保してほしい。
事前に防げて良かったと思う。
「それじゃ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
そう言って自室に戻っていくレネ。
しかし途中で立ち止まり、振り返る。
「サランはなにをしていたんですか?」
疑うような……ではなく純粋な疑問だと思う。
「……」
「サラン?」
「煮干しが、食いたくなったから……かな?」
我ながら変なごまかし方だと思う。
それを聞いたレネは。
「サランは食いしん坊ですね。でも夜食べると太りますよ?」
「あはは……そうだな、次から気をつけるよ」
「そうしましょう。では、おやすみなさい」
そう言ってレネは部屋に入っていった。
なんとか……なった。かな?
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