第10話
「なにやってんだおまえら……」
翌日の朝。
買い物から帰ると俺の家でふたりが言い争っていた。
「あ! サラン見てくださいよ! 不審者です! 不審者!」
「サランくん見たまえ、変な格好してる者が紛れ込んでたぞ」
ふたり……レネとユリウスだ。
じたばたと暴れるレネに対し、ユリウスが片手で抑えている。
身長差もあり、ユリウスの長い腕にレネのリーチでは届いていない。
「元気だな……ふたりとも……」
俺は買ってきた食料や雑貨。
ふたりを傍目に棚や引き出し、倉庫内と決めた場所にしまっていく。
「あなた誰なんですか! 自分家のように私たちの家に入ってきて!」
「私たちとはなんだ小童。ここは僕たちの家だ」
「勝手に家の半分を持ってかないでくれ」
堂々と家の半分を取るふたりに思わずツッコミを入れてしまう。
「あなたほんと誰なんですか!」
「君こそサランくんのなんなんだ」
「私はサランの嫁です!」
「違うよ?」
「ええっ!?」
「ハッ! 僕はサランくんの大大大大大親友さ!」
「違うよ?」
「なんでだい!?」
冷静に淡々と返すとふたりとも驚嘆の声を上げる。
ありえないと抗議するかのようにレネが俺に詰め寄ってくる。
「なんでですかサラン! 10年前の約束を忘れたんですか! 私のことを弄んでいたんですね!」
「いやそういうわけじゃ……」
別にあの時レネを無下に扱ったわけではない。
そこにユリウスがさしこんでくる。
「10年前!? ハッ、サランくんはそんな事とっくに覚えてないさ! なんせ簡単な計算すらいまだ電卓が必要だからね!」
いいだろ別に。
ユリウスが清々しく言い放つ。
サポートしてやったぞ感謝しろとでも言っている顔がとても腹立つ。
「ちなみにサランくん、その子は今いくつだい?」
「ん? たしか15だな」
「……」
「なんだよ」
「それは……ちょっと……引く……」
おい親友だろ。
長い付き合いだが懐が深く許容範囲の広いユリウスが珍しく引いてる。俺に。
「というか貴方には関係ないでしょう! 見ず知らずの人に私の大大大好きなサランを奪われたくありません!!!」
我慢ならなくなったのかレネが声を上げた。
「見ず知らずとはなんだ。10年だかなんだか知らんが僕の方がその何倍も大大大大大好きなサランくんといっしょにいるんだからな!」
対抗し高らかに宣言をするようにユリウスが。
「おまえら一旦落ち着いてくれ……」
「照れてますね」
「照れてるな」
「やかましすぎる……」
肩を落とし辟易してる俺の本心を秒で見透かしてくるふたり。
なんでここだけ息ぴったりなのやら。
そう考えていると、一息つき落ち着いたのかユリウスが俺に問いかけてくる。
「……で、サランくん。彼を匿ってるのか知らないが置いといてどうするつもりだい? 金に困ったならまず僕に相談しろと言ったじゃないか」
机に体重を預け、やれやれと言わんばかりのユリウス。
しかしその言葉からは心配してくれてるんだろうなと感じる。
金銭関係においてユリウスはとても頼りになるし既に何度か世話になっている。
ということもあってか本気で心配させてしまったのだなとすこし申し訳なくなる。
「金に関してべつに今は困ってない。というかこいつはおとこ……」
「わかっているさ」
「え?」
「……? その小童は男だと言いたいんだろう? 多少かわいげがあるが僕の目は騙せないよ」
レネを横目にユリウスが淡々と言う。
正直驚いた。
ひと目見た時女性かと勘違いするほどの可憐さと庇護欲を掻き立てるような愛くるしさを与えてきた……それがレネだ。
しかしユリウスはこの会って間もないのにとっくに見極めていたのだった。
伊達に日頃女性と遊んでいるだけはある。
「さすが常日頃女性と遊んでいるだけはあるな」
「二度も言わなくていいよ」
すこししかめっ面でこっちを睨んできた。
心の中まで読まれてしまった。
「で、どうするんだい? 彼……レネくんを」
「私はサランと同居してるんですー! あなたにどうこう言われむぐむご!?」
「ちょっと静かにな」
激昂するレネの口を俺が後ろから軽くふさぐ。
レネは未だ落ち着きを取り戻せてないらしい。
話をしたいので申し訳ないがちょっとおとなしくしててもらう。
なんかレネの顔が熱く感じる……。
よく見れば耳もすこし赤い。このテンションは熱でもあるから高いのか。
おっと、本題に入ろう。
「レネはちょっとした居候だ。今日にでも親御さんのとこにでも帰ってもらうさ」
さらっと概要をユリウスに伝える。
レネがんーんー!と顔を横にふっている。
そしてなぜかユリウスの顔は険しい。
「なるほど……なにも知らないと見た」
「な、なんのことだよ」
長年の付き合いからかなにかを見抜いたユリウス。
険しい顔のままゆっくりと、重く言い放つ。
「彼は、この国の王子……第七王子レネリア・フューエルだ」
結婚を約束した子は男の娘……!? えまま @bob2301012
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