第6話
「どこ行ったんだあいつ……」
盗んだと思しき犯人を追いかけた俺たち。
路地裏に入ったところで見失ってしまった。
「あ!」
「どうした!?」
唐突にレネが叫び出す。
犯人でも見つけたのだろうか。
「ここ! 昔会ったところじゃないですか!?」
「ああ……」
たしかに、ここは昔レネと出会ったところだ。
「よく覚えてるな」
あの時は真っ暗だった。
そのうえレネは、この北街に詳しくないはず。
「あたりまえですよ! サランと初めて出会ったところですもの!」
満面の笑みであたりを見渡すレネ。
……なんだか申し訳なくなる。
レネはしっかりと覚えていたのに、俺は忘れていた。
この容姿でも、気にせず会話をしてくれる。
「ところであいつはどこ行った?」
あたりを見渡しながら歩くが、さきほどの人物は見当たらない。
ここの路地は一本道。
ところどころ木箱が置いてあるだけ。
隠れることは不可能だ。
もうすでに先へ行ってしまったのだろうか。
「ねこちゃーん」
虚無に向かって叫ぶレネ。
「何やってんだ……?」
「え? あの時、ねこがいたじゃないですか。そことかいません?」
木箱を指さすレネ。
お気楽だな……。
自分の荷物が盗まれたっていうのに……。
とりあえず木箱周辺を探す。
蓋付きなので蓋を開けてみたりする。
「こんなところにいるわけ……あ」
「どうしました? ねこちゃんいましたか?」
「いやいない。けど……」
レネも箱の中を覗く。
見れば、木箱のなかに茶色の鞄が。
「あ!」
「もしかして、レネのか?」
「私のです! ……中身も全部あります!」
中身を取り出しながら確認するレネ。
ときおり下着とか見えるから。俺はどうも気恥ずかしい。
「まぁ見つかったならよかった。ただこれからは気をつけろよ。泥棒とかも多いからな」
自衛しないと泥棒とかに全部もってかれたりするぐらいだ。
ここに住むと言うのなら、注意してもらいたい。
「次から気をつけます……。でも、盗んだ人は誰だったんでしょうか……?」
「俺もわからん……。追いかけてとっちめてやりたいところだけど……」
ちらと空を見る。
オレンジ色に染まり、うっすらと闇が顔を覗かしている。
そして木箱が汚れていたせいか。
俺の手などが汚れている。
「帰るか」
「そうしましょう!」
レネはよいしょと鞄を持つ。
「夕飯、どうする?」
「私は大丈夫です! 食べ物も持ってきましたから!」
鞄から取り出されたのはパン。
だけ……。
一日ぐらいならもちそうだけど……。
「絶対足りないだろ……」
「む……ぅ、そうかもしれません……」
しゅんとするレネ。
「遠慮しなくていい。口にあうかはわからないけど」
「……では、お言葉に甘えます」
レネは言う。
いつもの無邪気な笑顔とはまた違った、穏やかな笑みで。
俺は不意に胸の高鳴りを覚える。
レネの後ろから照らす夕日が、また一段とレネを輝かせていた。
「おう……」
俺はそれにたいして、つい、そっけなく返してしまった。
長い間、女性と関わったことがないからか。
つい不器用に……。
「……サラン!? 急に頭をぶんぶん振ってどうしたんですか!?」
「こいつは男こいつは男こいつは男……」
「!?」
自分に驚く。
完全にレネを女性として見ていた。
自己暗示をして振り払う。
「ちょ、サラン! 戻ってきてください!」
頭を振るのを止めるため。
レネが俺の頭をぎゅっと抱く。
俺の顔が、レネの胸に埋まる。
暖かくて……いい匂いがして……って違う!
すごく心地よかったがレネは男。
男なのか……?
本当は女なのでは……。
わからなくなってきた……。
「しっかりしてください! 私が……妻がいますよ!」
「妻……そうか……」
「そうです! 愛しの妻です! さぁ、我が家に帰りましょう!」
「そう、だな……」
俺たちは、家に戻った。
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