第4話
まさか本当に来るとは……。
言われたとおりというべきか。
レネはありえないほど美人になっていた。
しかもきっちり十年後。
正直、ほんとに言うとおりに来るとは思わなかった。
「まさか覚えていないとは……」
「それはほんとにごめん……」
呆れたようなレネ。
俺はそれに対し申し訳なく謝罪。
「私は十年間、あなたのために自身を磨き続けてきました。身なりにも気を遣い、家事も全般こなせます」
自信満々に今までの努力を語るレネ。
マジでそこまでこなしたのか……と俺は驚く。
「そして十五歳になりました。なので結婚しましょう」
「ほんとに、結婚するの?」
「? 当たり前です。私たちは運命の赤い糸で結ばれていますから!」
天を見上げる。
それをこの十年間、信じてきたことに驚く。
「あのな、あれは話のなかであって……」
「私の中で、サランは運命の人と決まっています」
確固たる意思を感じる。
しかしどうにもそこらへんが信じがたい。
意地でも張っているのでは。
そう思い、俺はある質問をする。
「なら俺の良い所とかあげてみろ」
あえて厳しく言い放つ。
これで大したことが言えなければその程度だったということだろう。
レネはすこし考え。
そしてまくし立てるように言った。
「まず容姿端麗、とにかく顔が良いですしスタイルも良く、鋭い目つきに惚れ惚れします。ベリーショートの黒髪、私が毎日梳いてあげたいほどです。髪色は親御さん譲りでしょうか? ワイルドな一面もあってそこにキュンとします。見た目に反して優しく気配りもでき、将来的には良いお父さんになると思いますし、仕事の関係上服のセンスも良く、たくましい体つきに見とれてしまいそうです。あと……」
そのあとレネは日常生活のあれこれにいたるまで、事細かに俺の魅力を語る。
俺はうれしさと、気恥ずかしさを感じた。
しかしそれらを上回る恐怖も感じた
時計の針が五回転ほどしたころ。
息をつくレネ。
「と、以上がサランの魅力です……ってどうしました!? 机に突っ伏して!?」
色々な感情が自身の中でない交ぜになっている。
俺は徐々に椅子に座り込み、最終的には机に顔を伏せる状態に。
「……多くない?」
「多くありません! まだ言い足りないほどです!」
まだあるの……?
満腹なのに無理矢理食べさせられている感じがする。
最初は嬉しかったが後半はもうなにがなんだか。
「というか、なんで俺の私生活まで知っているんだ?」
「えっ……と、それは……」
急に歯切れが悪くなるレネ。
「なんでだ? 言ってくれ」
立ち上がり、カウンター越しにレネに顔を寄せる。
彼女の息がかかるほどの距離。
店の取引で不当な高額請求をするやつがいたときによく使った技。
まだガキだと思われ、だまそうとしてくるやつがこの十年間絶えなかった。
対等に取引がしたいのでたまにこうする。
「ひゃぁぁぁぁぁ近い近い!」
レネが小声でなにか呟いたがよく聞こえない。
口をパクパクとさせ、頬も真っ赤だ。
「で、なんで知ってんだ?」
「お、おいおい話します……」
それを聞いた俺は嘆息し、椅子に座る。
とりあえず熱意は伝わった。
この思いは本当だろう。
「あとレネ、性格変わったよな……」
十年前、会ったときは落ち着いているというか静かな印象を受けた。
今となっては天真爛漫という言葉が合うだろう。
夢見がちなとこは変わっていないが。
「そんなことより、結婚しましょう!」
本題に入りたいと言わんばかりに告げるレネ。
「ほんとに俺でいいのか? 世間的な目も気になると思うぞ」
「愛の力で乗り越えましょう」
愛の力無限大すぎる。
「逆にサランはいいんですか?」
なにか不安に思ったのか、逆に訊くレネ。
「……レネに不満はない。ただ急すぎてだな……」
心の準備というか。
女性経験があまりないため、俺はこの先を不安に思う。
「では同棲から始めましょう!」
「いやダメだろ。レネはまだ十五。年端もいかない女の子が男と同じ屋根の下なんて……」
レネの提案を即却下。
どうにも難しい。なにかしらで妥協してほしいところだが……。
そう思っていると。
「……女? 浮気ですか?」
え、こわ。なんで急に声のトーン落として言うの。
心なしか目にも光が無い。
てか浮気って。結婚どころか付き合ってすらいないのに。
「浮気もなにも、レネのことだ。というか親が許さないと思うし……」
俺がなぜか弁解していると。
レネはキョトンとし。
「私は男ですよ?」
衝撃的な、一言を。
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