第17話消えたストーリーの先に

 四月三日、全治が「おっさん・トリップロード・ラブ」の世界を冒険してから二日が経った。あれから全治は、あの冒険の事ばかり考えている。いつも通り町をぶらぶらしていると、北野君に会った。

「よお、全治!!」

「北野君、こんにちは。」

「ところで全治、おっさん・トリップロード・ラブって本知っているか?」

「ああ、読んだこと無いけど、読んでみたいな。」

 それは全治の本心だが、北野は意外なことを言った。

「読んでみたいだって?全治、それは止めた方がいい。」

「え、どうして?」

「あの本は呪われているんだ、今日のニュースにも「その本を開いたら、その本の世界に閉じ込められた。」ってやっていたぞ。」

 全治は北野の事を聞いて思い出した、黒之の「因果転送」により、全治に限らずその本を開いた者が、本の世界に送り込まれてしまい、さまよっていた。そして本の世界が消え、全治と同様にその本を開いた者が、現実世界に戻ってきたのだ。

「そんなことになっているんだ・・・うーん、でも読みたいなあ。」

「全治って本当に変わっているよな、そういえばそのせいでおっさん・トリップロード・ラブが、全国で多く返品されたり古本屋に売られているってさ。」

 そしてしばらく会話した後、北野と別れた全治は再びぶらぶら歩いた。そしてふと公園のベンチに座り、あの時の事を思い浮かべた。

「本の世界での冒険、あれは本当に楽しかったなあ・・・。それにあの六人とそれぞれ過ごした日々が忘れられない・・・。もしあの六人と、あの世界で違う出会いをしていたら、どんな思い出を作ることが出来たのかなあ・・・?」

 全治がすこしボーっとしていると、空の上からゼウスの声がした。

「全治、よくこの世界に戻ってきたな。お前なら、出来ると信じていたぞ。」

「ゼウス・・・少し疑問があります。」

「何だね?」

「実はあの世界で黒之君と戦う時、黒之君はガエターノ・つまり物語の敵を犠牲に力をつけて、僕に挑んできました。そしたら突然空に穴が開いて吸い込まれて、僕は戻ってくることが出来ました。これはどういう事でしょうか?」

「ふむ、それは黒之がガエターノを犠牲にしたことが『物語の終幕』になったのだろう。それにより、お主は戻ってくることが出来た。」

「なるほど・・・、納得できました。」

「しかし黒之はまだ諦めないぞ、まだクロノスが付いておるからなあ。」

「うん、でも僕は黒之君とは友達になりたいと思っているんだ。何だかその方が、面白くなりそうだから。」

「ふう・・・、流石はわしの選んだ少年だわい。」

 そう言い残してゼウスの声は止み、全治も帰宅するために歩き出した。



 四月四日、全治は朝のニュースを見ていて愕然とした。何とおっさん・トリップロード・ラブの作者・認天道幸太郎が、昨日の午後十時三十分に自宅に火を付けて焼身自殺したのだ。

「消防によりますと、昨日群馬県高崎市で家が燃えていると住民から通報がありました。火は通報から三十分後に消し止められましたが、この家の住人・春日文康が焼死体で発見されました。春日文康は呪われた恋愛小説で有名な『おっさん・トリップロード・ラブ』の作者で、最近春日氏に対する誹謗中傷の置手紙や動画、更には押しかけの嫌がらせが多発し、精神を病んだうえでの行動によるものだと警察は分析しています。」

 更に認天道幸太郎の親友の証言が報じられた。

「認天道幸太郎の親友・昨日午後二時頃に彼を慰めようと訪問したら、家の中が物で散らかってており、自暴自棄になっている事が直ぐに分かった。彼はリビングの角にうずくまっており、声をかけたら『帰れ、一人にさせろ!!』と怒鳴られた。ただその時に自分に向けた顔は鬼の形相だったが、目は虚ろだった・・。」

 全治はどうして認天道幸太郎がこんな目に遭わなければならないのかと、自宅で考え込んだ。しかし答えはエイプリルフールの嘘のように、直ぐに分かった。そして全治はため息をついた・・・。

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全能少年外伝「エイプリル・ブックワールド」 読天文之 @AMAGATA

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