第16話脱出への決戦(後編)

 『私達と融合する。』とかつての女性達から言われた時、全治の頭は真っ白だった・・。

「融合・・・すると・・・どうなるの?」

『そうすればあなたはこの世界の運命を操る力を手に入れられる、あのガエターノなんかどうという程ではないと思ってしまう程の力がね。』

「でも融合すると僕と君たちは、一体どうなるの?」

『チンカエがどうなるかは分からないけど、私達が消えることは確かね。』

「えっ!!それでいいの?」

『うん、これはみんなの思いなの。元々ここは本によって生み出されて、この本を手に取った読者達を楽しませるのが私たちの使命なの。でも、もうその使命を果たすことが出来なくなってしまったの。だからお願い、あなたと一つになってこの世界を終わらせて!!」

 ハル・シャンメイ・ミアレクル・リイファール・ミガラウ・アラーヌが、全治に頭を下げた。

「・・・分かった、この世界が終わることが定めならば、僕がこの世界を終わらせてあげる。」

「ありがとう、ありがとう!!」

 ハル・シャンメイ・ミアレクル・リイファール・ミガラウ・アラーヌは、とても喜んだ。

「じゃあ、融合しよう。それで、どうすれば融合できるの?」

『私達が円になるように並んで、その中央にあなたが入るの。そして私達が祈るから、「六つの魂よ、世界の幕を下ろす鍵となれ。」と唱えればいいの。』

 全治派頷いた、そしてハル・シャンメイ・ミアレクル・リイファール・ミガラウ・アラーヌは全治を中央に円陣を組んで祈りだした、そして全治は呪文を唱えた。

「六つの魂よ、世界の幕を下ろす鍵となれ。」

 そして六人は光の玉になって、全治の胸の中へと吸い込まれていった。そして全治はその力を全身で感じ、やがて意識が戻る感覚を感じた。


「全治様、全治様!!」

「ん・・・・ホワイト?」

「気づかれましたか、全治様。よかったーー!!」

 ホワイトは安堵の涙を流した、そして全治は自分の体にある新たな力を感じていた。

「これは・・・・そうか、あの時の。」

「全治様、これを。」

 ホワイトは持っていた魔導書を、全治に渡した。全治が魔導書を受け取った時だった、全治から魔導書に力が送り込まれていくのを、全治は感じた。そして魔導書は、元の力を取り戻したのだった。

「凄い・・・これなら、ガエターノを倒せる!!」

「では行きましょう、全治様!!」

 ホワイトは大きくなって、ホッキョクグマの姿になった。そしてホワイトに全治がまたがり、ホワイトは全力疾走で走り出した。

「マーキュリー・ウォーター・オール!!」

 水の荒波が、砲台を薙ぎ払いながら流れていく。全治はホワイトに乗りながら、水面を進んでいく。

「あっ、全治様!!」

「ご無事でしたか。」

 上空からアルタイルとルビーが声を掛けた。

「うん、もう僕は元通りさ。ガエターノを倒しに行こう!!」

「じゃあ、本気で行くわ!!」

「私も参ります。」

「俺も行くぞ!!」

 そしてここから、全治と眷属達の快進撃が始まった。ブレスを吐くルビー、熊手で蹴散らすホワイト、特攻するアルタイル、そして雷を放つ全治は、敵の要塞で大嵐の如く暴れた。この光景を王宮から眺めていたガエターノは、苦虫を嚙み潰したような顔をしながら焦りだした。

「何だこれは!!我が要塞の兵器が次々とやられていくではないか・・・、しかもあいつが魔法を使えているだと!!もうあの魔導書は、ただの本になったのではなかったのか・・・おのれ、こうなったら奥の手だ!!」

 ガエターノは要塞の中央に向かった、そこには巨人のような機械が直立不動で立っていた。ガエターノは杖を掲げて、呪文を唱えた。

「我が魔力を捧げ、今こそこの国の最大の敵を滅するため、破壊の技巧の神髄をここに示せ!!」

 ガエターノの姿が、機械のコアに吸い込まれた。そして機械の目が赤く光り、自らの力で拘束を破り、更には王宮をも破壊してその姿を現した。

「これは大きい・・・!!」

「何だこのロボットは!!」

「こ・・・こんなのがあったのか!!」

「前世の子供の頃に見た、巨大ロボみたいですね。」

 全治と眷属達は目の前に現れた巨大な機械に、心を奪われていた。そして機械からガエターノの声がした。

「よくもやってくれたなチンカエ、こうなったらこの魔導機械巨人・マギアゴーレムで、お前らを粉砕してやる!!」

 そしてマギアゴーレムは、全治と眷属達に向かって右手の拳を放った。全治と眷属達はかわすことは出来たが、破壊力のすさまじさを思い知った。

「これは危険だ、早く倒してガエターノの所へと向かわなければ・・・。」

「フハハハハハ、何て愚かなことだ・・・。」

「ん?どういうこと?」

「このマギアゴーレムこそが、私自身なのだ。つまりマギアゴーレムを倒せば私は死ぬ、まあそれが出来ればの話だがな!!」

 マギアゴーレムは左手の平から、火炎放射を放った。更に左右の方からは飛行機が発射され、全治と眷属達を追尾する。

「全治様、あれを!!」

「うん、行くよ!!」

 全治は「ケラウノス・ジュピター・セル!!」と、大声で唱えた。強大な雷が矢の如く降り注ぎ、飛行機と砲台を破壊して、要塞に無数のへこみが出来ていく。マギアゴーレムにも、大勢の人から殴られたような痛みが襲い掛かった。

「ううう・・・・、やってくれるなあ!!それなら、これはどうだ!!」

 するとマギアゴーレムは、結界でルビーを束縛した。

「何よこれ!!ここから出しなさい!!」

 ルビーはブレスと爪で抵抗するが、結界は破られない。

「さあチンカエ、私を攻撃して見ろ。」

「ん?どういうことだろう?」

 全治は疑問を抱きながらも、マギアゴーレムに雷を放った。すると結界の中のルビーが「ぎゃああーーーー!!」と悲鳴を上げた。

「くっ・・・そういうことか。」

「ハハハハハ、本当に攻撃してきたバカな奴よ。この結界に捕らわれたものは命ある限り、私が受ける痛みを全て受けるのだ。つまり私は、お前の眷属を盾に攻撃を防ぐという事よ。」

「卑怯極まり無いことを・・・あなたは魔法使いとして最低です!!」

 アルタイルが憤慨した。

「全治様、どうしましょう!?」

 ホワイトが全治に尋ねた。

「うーん・・・、お!!」

 全治は魔導書の光るページを見つけた、これはこのページの魔法で状況を打開できるという、何度も体感してきた魔導書の教えである。全治はそのページを直ぐに開いて、呪文を唱えた。

「奇跡の力よ、この世界の決まりを示すために、変化の力を示せ!!」

 全治が唱えると眩い光が放たれ、その後に明らかな変化があった。

「あれ?私、ロボットになってる!!」

「これはどうなっているのだ!!何で私が結界の中にいるのだ!!」

 ルビーがマギアゴーレムのコアに入り、ガエターノが結界の中に入っている。つまり立場が入れ替わったのだ。

「なるほど、これならいけますね!」

「よし、みんなであの機械に攻撃だ!!」

 ホワイトとアルタイルの連携攻撃、そして全治の「ケラウノス・ジュピター・セル」がマギアゴーレムを襲うが・・・。

「ぎゃああああああーーーーー!!」

 結界の効果で、ダメージはガエターノに入る。

「みんな、もっと行くぞ!!」

 全治は自身と眷属達の力を高めた、そして攻撃は苛烈を増し、ガエターノの叫びが断末魔となっていく。しかし全治が勝利を確信した時だった、目の前に黒之が現れた。

「黒之君!!」

「全く、全治相手にこのざまとは・・。」

 黒之は神の力で、ルビーをコアから解放し、ガエターノを結界から解放した。

「あれっ、戻った・・。」

「な・・・何でお前がここに・・。」

 すると黒之は神の力で、ガエターノの力を奪いにかかった。

「うおわああーーーーー!!何をする―!!」

「ガエターノ、お前では全治に叶わない。だからお前の命と魔力で、この私が全治を倒す。」

 そしてガエターノは何かを言いかけて消えた、そして全治と眷属達が身構えた時だった・・。

(何て愚かなことを!!)

 という声がした。

「えっ、クロノス様!!」

「何だって!!」

 全治とクロノスが驚いていると、突然空が崩れ落ちて、地面の草木も建物も消え、全治と眷属達と黒之は、空に開いた穴へと吸い込まれていった・・・。



「うーん・・・、ここは・・?」

 全治と眷属達が意識を取り戻すと、そこは本を開いた現実世界の場所だった。

「えっと、僕は・・・元に戻っている。」

「ということは、戻ってきたんだ!!」

「やったーーー!!」

「ふう・・・・一時はどうなるかと思いましたが・・・良かった。」

 眷属の喜ぶ声で、元の世界に戻ってこれたことを、全治は感じた。






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