第14話ガエターノの野望
『何としても向こう側へ行きたい私の前に、思いもせずにアラーヌが見るも無残な姿で現れる。私はアラーヌを介錯し、互いに惹かれあっていく。そしてアラーヌは、「助けてくれたお礼に、我が祖国再生に立ち会わせてやろう。そして我が祖国の住人にしよう。」と言った。これでようやく安住の地に着ける・・・・この時まではそう思っていた。やはりあいつの存在を無くさない限り、私に安住は訪れないようだ。』
体力を使い果たした全治は、一旦赤い線の付近に戻りそこで野宿をした。そして眷属達に食料調達を命じ、自分は薪を集めて火を起こした。するとアルタイルが、意外にも早く戻ってきた。
「全治様、大変なものを見つけました。直ぐに来てください!!」
「えっ、何だろう?」
全治がアルタイルに導かれて来てみると、何とアラーヌが土に汚れてうつ伏せに倒れていた。しかも下着姿で、体の半分程の肌が露わになっている。
「これは昨日会ったアラーヌだ、どうしてこんな姿になったんだろう?」
「そんなこと考えないで、助けましょう!!」
アルタイルに強く言われた全治は、アルタイルの肩を持って、火を起こしたところに戻った。そして魔導書でアラーヌに服を着せて、横に寝かせた。そして鹿を捕らえたホワイトとルビーが戻ってきた。
「全治様、大きな鹿が捕れました・・・、あっ、何でアラーヌがここに!!」
「アルタイルが見つけたんだ、山の中で何かあったらしい。」
全治は魔導書からナイフを出して、鹿を上手に捌いた。そしてその肉を火に炙っていると、アラーヌが意識を取り戻した。
「・・・・ここは、どこだ。」
「あっ、気が付いたようだね。」
「ん?・・・・あっ、お前はチンカエではないか!!もしかして・・・、助けてくれたのか?」
「うん、アルタイルが見つけて僕がここまで運んだんだ。今肉を焼いているけど、お腹は空いていないかい?」
「いや、大丈夫だ。」
しかしそういうアラーヌのお腹が鳴ったので、アラーヌは食事に参加することにした。アラーヌはマナーを意識してか、骨付き肉を少しづつかじりながら食べている。
「ところで、山の中で何があったの?かなりボロボロになっていたけど。」
「実は、祖国を再生させる者たちのために川へ水を汲みに向かっていた。ところが連れていた馬が突然倒れて死んでしまった、そうしたら大柄な狩人が現れた。狩人が猟銃を持っていたことから、こいつが撃ったと確信し、狩人に問い詰めた。狩人は自分がしたと認めたが、そこから口論になって、何と狩人は、私に追い剥ぎをして殴った。そこからは覚えていない・・・。」
おそらく気を失ったアラーヌは、狩人によって山の中に転がされたという事だろう。
「それは辛かったね、せっかく生まれた国を蘇らせようとしている時に、あんな目に遭うなんて。」
「そうだな・・・このままでは皆に顔向けができない・・・。」
落ち込んでいるアラーヌを見て、全治は助けたくなった。
「よし、僕が手伝うよ。」
「何・・・チンカエが?」
「こんな時は助け合うに限るよ。一緒に川へ行こう。」
全治の優しい視線に、アラーヌの心にありがたみと美しさが入り込んだ。
「あ・・・ありがとう、わが友よ!!」
アラーヌの顔に喜びが満ち溢れた、全治の心はその顔の可憐さに惹かれていった。
全治が連れてきたアラーヌが意識を取り戻す少し前、物陰に隠れて全治達を眺めている者がいた、高須黒之である。
「見つけたぞ、全治。次こそは魔導書を奪ってやる・・・。」
あの激闘の後、一度現実世界に戻って態勢を立て直した黒之。そして再びこの世界にやって来たのだ。黒之は魔導書を奪う作戦を実行に移すため、音も無く何処かへ行った。
食事を終えた全治と眷属達とアラーヌは、川へ水を汲みに向かった。川までは魔導書の浮遊術で向かった。
「なかなか面白いな、さすが結界を壊す程の雷を放つ程はある。」
「まあね。」
全治は照れたが、ルビーはムッとした顔をしていた。川のほとりに着くと、アラーヌはあることに気が付いた。
「あっ、そういえば水を入れるタルが無い!!」
「タル?僕が君を見つけた時は、無かったけど。」
「そうだ、私が狩人と会った場所にあるかも。」
そこで全治と眷属達とアラーヌは、その場所へと向かった。しかしその場所にタルは無かった。
「やはりあいつが持っていったか・・・だったら基地に戻ってタルを取ってこよう。」
「うん、案内をお願いします。」
そして一行は基地へと向かった、しばらくすると大きく開けた場所を上空から見つけた。どうもここが、アラーヌの祖国を復活させる場所らしい。
「見よ、あそこを。ここが我らが誇る国・エーデルマストを蘇らせる場所だ!!」
アラーヌは堂々と言った。そしてその場所の入り口に降り立つと、アラーヌを先頭に中へ入ろうとした時だった。
「あっ、アラーヌ様。その方は?」
門番が声を掛けた。
「ああ、チンカエだ。実は・・・。」
とアラーヌが話す間もなく「チンカエだぞ!!」と門番が叫ぶと、三人の兵士が駆けつけて、何と全治を縄で縛った。
「全治様に何するんだ!!」
ホワイトが叫んだ。
「見つけたぞ、魔導書だ!!」
「あっ、僕の魔導書が・・・。」
「お前達、私の恩人に何てことをするんだ!!」
「しかし、これも我が祖国のためでございます。この魔導書の魔力なら、祖国を再生させることができます。」
「何・・・どういうことだ・・・?」
「ねえ、もしかしてそれを言ったのは、黒之君では・・・?」
「その通りだ!!」
すると黒之が歩いてきて、兵士から魔導書を貰った。
「ではこれより、亡き国・エーデルマストを蘇らせる。」
黒之はそう言うと何処かへと歩き出した、アラーヌと捕らえられた全治と眷属達が後に続く。黒之が行きついた先には、魔法陣とバスケットボール位の大きさの水晶玉があった。
「これは・・・一体?」
「あの水晶玉には、魔力を送ることで願ったものを再生させる力がある。ただ、水晶玉が割れないと効果はない。」
「そう、つまりお前の魔導書の魔力でこの水晶玉を割って、この国を蘇らせる。良かったじゃないか、魔導書が役に立って。」
そう言うと黒之は、自身の神の力で魔導書の魔力を水晶玉に送った。すると水晶玉が二つに割れて、そこから強大な力があふれ出た。
「これで・・・祖国が蘇る!!」
そして何もなかった大地に、建物が生えるように現れ、王宮もその絢爛たる姿を現した。
「おおーーー!!エーデルマスト、万歳!!」
兵士たちは万歳をしながら喜んだ。
「これだ・・・これこそ我が祖国だ。」
「す・・・凄い・・・!」
全治と眷属達が唖然としていると、背後から拍手しながらガエターノが現れた。
「まさか黒之が私の代わりに・・・まあ、これで望みは叶いました。」
「ガエターノ、今までどこに?」
「えっ、ガエターノを知っているの!?」
「ああ、祖国を蘇らせる儀式をお願いしたんだ。」
「すまない、アラーヌ。私も向かっていたところだった・・・、でもこれでいい。」
ガエターノは懐から紙を出した、全治が「止めろ!!」とさけぶ間もなく、ガエターノは紙を破り捨てた。
「がはっ!!」
「ぐはあ!!」
アラーヌと兵士たちは血を吐いて、倒れだした。
「やはり・・・、そのつもりだったんだな!!」
「そうだ、これで私の野望「魔導都市を作り、支配者なる。」が叶った!!」
「ちっ、そういう事かよ・・・。」
黒之はそう言うと、立ち去って行った。
「全治様、しっかりしてください!!」
ホワイトが爪で、全治の縛りを解いた。
「ありがとう、それよりアラーヌが!!」
全治は倒れているアラーヌに駆け寄った。
「大丈夫か!!しっかりして!!」
「チンカエ・・・どうやら・・・我らが愚かだったようだ・・・、思い叶わず死ぬのは無念だ・・・チンカエ、そなたと一緒に・・・エーデルマストで暮らし・・。」
ここでアラーヌはこと切れた、そしてガエターノの不気味な高笑いがこの場に響いた。
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