第12話魔法の時間の終幕

『ミガラウの町では誰もが平穏に、そしてミガラウをたたえながら暮らしている。ミガラウは、天真爛漫な笑みで皆を癒しこの国に安らぎをもたらす。しかし、そんな彼女から私はこの町の秘密を知る。「ここに居る住人を創ったのは私なの、だから私には住人を守り育む義務がある。だから私と住人以外の人を救う祈りを使ったら・。」

私はミガラウの心に、温かい手を差し伸べたくなった。』



 全治と眷属達がミガラウと出会った日の翌日、全治達はミガラウが教えてくれた宿で目を覚ました。朝食を食べ終えると、外から何やらトランペットの高らかな音色が聞こえた。

「何だ、この音は?」

「ああ、ミガラウのマーチだよ。毎朝欠かさず行進しながら、町を一周するんだ。あんたも、外に出てミガラウを称えるといいよ。」

 宿の女将さんが全治に教えた。全治達が宿の前に出ると左方向から、トランペットを吹く兵隊と太鼓を叩く兵隊が列をなして歩いている。そしてその列の真ん中に馬車があり、そこからミガラウが町の住人に向けて手を振っている。町の住人は、ミガラウの行進に歓喜を上げて、兵隊たちの演奏に合わせて手を叩いたり踊ったりしている。

「何だか、凄いなあ・・。」

「あ、チンカエ!」

 馬車からミガラウが、全治に呼びかけた。

「何ですか?」

「ちょっと話があるの!」

 そう言うとミガラウは行進を止めて、馬車から降りて全治と眷属達のところに来た。

「何ですか?」

「この後、僕の城に来てくれる?」

「城・・・、もしかしてあれ?」

 全治は高くそびえる白い建物を指さした、ミガラウは頷いた。

「いいよ。」

「わあい、ありがとう!!じゃあ、これを受け取って。」

 ミガラウは全治に、天使のマークが書かれたカードを渡した。

「これは僕のお客様という証、城の中に入るときに門番に見せれば入れてくれるよ。城から出るまで、無くさないでね。それじゃあね!」

 そしてミガラウは馬車に乗り込んでいき、行進が再開した。

「全治様、どうして彼女に誘われたのでしょうか?」

「うーん、分からない。でも行こうと思う。」

 全治と眷属達は、ミガラウの城へ行くことにした。その一部始終を、高須黒之は物陰で見ていた。

「ミガラウの城か・・・そこで魔導書を奪う!!」

 そして黒之は全治達よりも先に、ミガラウの城へと向かった。



 宿を出た全治と眷属達は、ミガラウの城に到着した。近くで見ると大きくて、天に届きそうに見える。全治は城の門番にカードを見せた、門番は「お待ちしておりました。」と優しく通してくれた。歩いているとミガラウのお世話係と名乗る男に声を掛けられ、ミガラウの所へ案内された。

「ミガラウ様、全治さんが参られました。」

「わあい、入って入って!!」

 ドアの向こうではしゃぐミガラウ、全治が部屋に入るとミガラウはもう派手に喜んだ。

「ねえねえ、遊ぼ!!」

「何か、全治様に妹が出来たみたいですね。」

「妹か・・・・、ちょっとよく分からないなあ・・・。」

 全治はミガラウとおままごとをしたが、ミガラウにダメ出しされてばかりだった。全治は元々一人っ子なので、兄弟との接し方が分からないのだ。

「あーあ、おままごと飽きた。ねえねえ、全治君は何か知っている遊びはあるの?」

 全治は頭を悩ませた、ここにはトランプも「戦・技・王」のカードも無い。そんな時、全治は魔導書を使う事を思いついた。

「じゃあ・・・あった、これだ。」

 全治は魔導書のページを開くと、呪文でシャボン玉をたくさん放出した。

「わあい、シャボン玉だ!!」

「次はこれだ。」

 こんどは虹を出した、そして虹を操って空中に花や犬や猫を書いた。

「凄い!!魔法使いだ!!」

 するとここで、ミガラウのお世話係が全治に話しかけた。

「あの、その魔導書をさらわせてくれませんか?」

 全治がお世話係の方を向いた時、何だか嫌な予感を感じた。そこで質問をした。

「その前に、あなたのお名前を教えてください。」

「名前ですか・・・・シムです。」

「ん?でもその声はシムじゃないよ。」

 ミガラウが言った時、お世話係が無理矢理全治から魔導書を奪いにかかった。魔導書を引っ張りながら全治が尋ねた。

「どうして、取ろうとするの!?」

「それはこれが正解だからだ!!」

 魔導書を奪ったお世話係の正体は、なんと黒之だった。

「黒之君・・・君だったんだね。」

「ちょっと、それは全治君のだよ!!返して!!」

「これはこの世界の創造者である私の物だ!!」

 そういうと、黒之は窓から逃げ出した。

「待て―!!」

「全治様、私に乗ってください!!」

 ここでルビーが外に出て、体を大きくした。そして全治と眷属達はルビーの背中に乗って、黒之の後を追いかけた。



 黒之は追いかけてくる全治達に気が付くと、追手の方を向いて攻撃をしてきた。

「クイック・ストーン!!」

 早く動く岩が、全治達に襲い掛かった。

「黒之の奴、どうやら本気ね・・・。」

「僕も行くよ、ルビー。魔導書は取り返さなければならない。」

 全治はルビーの背中に立って、黒之に向けて雷を放った。

「やるな、魔導書が無くてもここまでの力があるとはなあ・・。だが、私にはかなわない!!」

 全治と黒之は互いに攻撃をした、しかし力では黒之の方が上である。

「強いな・・・黒之君・・・。」

「本当に憎たらしいわね・・・。」

「やはりこの程度か・・・、ならばここで終わらせてやろう。」

 すると黒之は神の力を球状にして、エネルギーを込めてどんどん大きくした。

「これは・・・かなりまずいなあ・・。」

「全治様、どうしましょう?」

「・・・・僕も全力で行く!!」

 どんどん大きくなるエネルギーに、全治は覚悟を決めて、全身に力を入れた。

「消えろ、全治!!ダークホール・クロノス!!」

「オールサンダー・セル!!」

「ルビーファイヤー・ブレス!!」

 黒之の神の力が全治の轟雷とルビーの爆炎と衝突した。空中でエネルギーが放出され続け、それが風を起こして地上で吹き荒れる。

「ぐっ・・・強い・・・。」

「全治様・・・私はまだまだいけます!!」

 しかし全治とルビーは、瀬戸際まで追い込まれていた。いずれ押し負けるのも時間の問題である。

「ふっ、往生際の悪い奴め。素直に潰されれば、すぐに楽になれるのに・・・。」

「でも、僕は・・・僕は!!この世界から出るんだ!!」

 とその時だった、轟雷と爆炎が神の力を押し始めた。

「これは・・・いけるぞ!!」

「はい、このまま押しましょう!!」

「これはどういうことだ!!さっきまでこちらが勝っていたのに・・・!!」

 全治とルビーが全力で押していき、ついに完全に黒之に勝った。

「グワ―ーーーーッ、バカなーーーー!!」

 そして黒之は墜落した、全治と眷属達を乗せたルビーは着陸した。そして全治は、黒之の近くに落ちていた魔導書を拾った。

「これは僕のだから・・・。」

「あっ!!全治様、あれ!」

 ホワイトに言われて町の方を見ると、家々が霞みながら消えていき、人々も倒れて存在が薄れていきそして消えていく。

「何で・・・これは一体・・?」

「全治君・・・魔導書・・・取り返せたんだ・・・。」

 全治の前に現れたのは、ボロボロの服を着た髪の乱れた少女だった。

「ミ・・・ミガラウ・・・?」

「素敵な魔法の時間が終わってしまった・・・・、ガエターノのくれた素敵な時間が・・・。」

「ガエターノと契約をしたの?」

「契約って・・・?」

「うーん・・・、ガエターノと何か約束したの?」

「うん、家族の命と引き換えに・・・この天使の羽を貰った・・・。」

「どうして・・・どうして家族の命と引き換えなんて・・・。」

「私は・・・天使に憧れていた。みんなのお願いを叶える・・・素敵な天使に・・。」

「・・・ミガラウ・・・。」

「けど私は自身しか助けられない・・・そのことに気が付いて、悲しくて、それで自分だけの理想郷を創った。・・・全治、あなたが来てくれてありがとう・・・・私、やっと天使になれ・・・た・・。」

 そしてミガラウは息絶えた、町だった場所は荒野になっており、ただ虚しい雰囲気と風があるだけだった。

 


 

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