第11話天使の羽を手に入れし者

『生まれた町を荒らされたのと、これまでの悪逆非道な行動に、怒りを覚えた私はガエターノを打つことを決意する。そんな中私はある町であらゆる奇跡を起こすという、天使の羽を持つ少女・ミガラウと出会う。私は天真爛漫で可愛いミガラウに、心を惹かれていった・・・・、しかしミガラウは『私には起こしてはいけない奇跡がある。』という、そしてその奇跡を知ることで、やはりあいつの存在を知ることになるのだ。』



 町を出て歩く全治と眷属達、しかし全治の姿は冴えない中年のチンカエではなく、元の寡黙で美しい美少年・千草全治の姿になっていた。

「やっぱり、この姿の方がいいですなあ・・・。」

「うん、見ていて気持ちがいい。」

「やはり、全治様はこうでなくちゃ。」

 眷属達が久しぶりに見る、全治の本当の姿に興奮している。

「僕ってそんなに綺麗なの・・・?」

 眷属達が大きく頷いた。

「それはそうとして、リイファールさん・・・残念だったね。」

 結局リイファールは即死してしまい、遺体は共同墓地に埋葬されることになった。

「あの時、ガエターノは契約書を破いていた。つまり契約が消えると、契約したものは死んでしまうんだ。」

「うわあ、めちゃくちゃな契約だな・・・。」

「僕は人の心に付け込んで利用する、ガエターノが良く分からないんだ・・・。」

 全治は頭を抱えた。

「人って持ちつ持たれつの関係が一番だと思うけど、どうしてそこに欲望とかを練り込もうとするんだ?」

「一人では生きていけないということでしょう、もし初めから全ての人間に何でも出来る力があれば、協力して生きることは無かったと思います。」

「一人では生きていけないか・・・、確かに僕が元の世界で生きていけたのは、おじいちゃんとおばあちゃんと北野君のおかげだ。でも、僕はその人達を利用しようとは思わない、人には限りというのがあるからね・・・。」

「そうですね、一緒に居れば多くの経験を積めるし、新たな可能性を見出せます。利用することよりも価値は十分にありますよ。」

 全治は眷属達と対話をしながら先に進んでいく、それを木陰で見つめるのは高須黒之。

「何てことだ・・・・奪うつもりだった魔導書が全治の手元に渡ってしまった。クソ!!何が何でも奪ってやるからな・・・。」

 黒之はおぼつかない足取りで全治を追跡した、以前に受けた雷のダメージが強く残っているのだ。

「はあ・・・はあ・・・・、俺は決して失敗しないぞ。この世界を創ったのは俺だ、ここは全治の墓場なのだ、俺のシナリオは完璧なんだ・・・!!」

 黒之は顔を歪めて、静かに呟いた。



 一方、こちらは黒之と同じく雷に打たれてダメージを負った、ガエターノ。傷が癒えるまで前の町で休んでいたのだ。

「一体あいつは何者なんだ・・・、チンカエが綺麗になったといい、あの強烈な雷といい・・・、一体何がどうなっているんだ・・・?」

 ガエターノは困惑していた、自分と互角かもしかしたらそれ以上の存在に焦りを感じていた。

「とにかくあの魔導書をもう一度私の物にして、あの邪魔者とチンカエを消さなければならない。あの時は突発的でどう仕様もなかったが、今度こそは私の力を思い知らせてくれる!!」

 ガエターノは拳を握りしめた。

「それにしても、最近契約を切ることが多くなったなあ。ハルといいシャンメイといいミアレクルといい・・・・。まあ良い、所詮は契約上の関係、断ち切ってしまえばもう関りの無いことだ。」

 ガエターノには、契約を切った後の事などどうでもいい態度である。

「まあ、魔力を手に入れる方法は他にもあることだし、これからもそうしていけばいい。」

 実はハルを生み出したのは、あの泉の水には魔力があり、それを独り占めするためである。シャンメイを生み出したのは、轟空が持つ秘伝の滋養強壮の薬を手に入れ、自身の魔力を強化するため。ミアレクルの場合は、あの花屋に珍しい魔法の木の種があり、それを譲ってもらう代わりにミアレクルとその父に力を授けたのである。

「まあ、リイファールの時はただ金が欲しかっただけだどな・・・。人とは所詮、浅はかなものだ。目先の利益しか見えず、自分の未来がどうなろうとも知らずに手に入れようとする・・・。まあ、私も同類だけどね。」

 ガエターノは、自身の過去に更けながら、眠りに着いた。




 道を歩き続けていく全治と眷属達は、ある町に到着した。そこは小さきながらも豪勢で、建っている家もかなりの大きさがある。

「何だか、活気に溢れているなあ。」

「でも今までのとは様子がかなり違うようです、町の住民はお上品な感じがします。」

 確かに話声も大きくは無く、ただ聞こえる最低限の大きさで会話している。

「服も綺麗だし、それに何だか僕達ジロジロ見られています。」

 姿が変わっても服は元のボロボロのまま、全治はこの町では確かに浮いている。

「全治様、そろそろ昼食にしましょう。」

「そうだね。」

 幸い生前のリイファールからお金を貰っていた全治は店に入ろうとしたが、店員に入店を断られてしまった。

「あなたのような身なりでは、入店できません。」

 他の店を当たっても、同じ理由で入店拒否された。

「何だこの町は!!何で服装だけで、食事も出来ないんだ!!」

 ホワイトは空腹と不満でイラついている。

「うーん、困ったなあ・・・。」

 全治が首を傾げてていると、二人の女性と天使の羽を持つ少女が現れた。

「ミガラウ様、この方達です。」

「ん?君たちは誰?」

「こちらにおられますは、この町の町長にして奇跡の天使・ミガラウ様です。」

「僕はミガラウ、君達は旅の者かい?」

「うん、僕はチンカエ。ここに居るのは眷属達です。どうして僕達に、声を掛けたのですか?」

「実はこの町に身なりが悪いものがいると聞いてきたんだ。」

 眷属達は嫌味な顔でミガラウ達を見た。

「ああ、それでこの町で食事できなくて困ってます。」

「じゃあ、今からカッコよくしてあげる。」

 するとミガラウは祈りだした、すると全治の着ていたボロボロの服が、貴族の少年の服装になった。

「あれ?着ている服が変わっている!」

「おお!!全治様がさらにカッコよくなった!!」

「これでこの町で食事ができるよ。じゃあね!」

 そういうとミガラウ達は去って行った。そして店に入ると、さっきとは打って変わって店員に通され普通に注文して食事ができた。

「何か、身だしなみに厳しい町だね。」

「確かに、一体この町の住民はどんな頭しているんだ?」

「でも、それよりも不思議なのはあのミガラウだよ。旅の者である僕達を唯一受け入れて、服装もちゃんとしてくれた。ミガラウは見た目も心も、本物の天使のようだ。」

「確かに、彼女は普通の人とは思えません。」

「うーん・・・、見た目も可愛いし・・・。」

「・・・全治様、最近女性に心を惹かれ気味な気がします。」

「確かに、この世界に来てから特にそのことについてばかり考えています。」

「え・・・・一体どうして・・・どうして・・・?」

 全治はそのことが頭から離れられず、店を出てもずっと考えていた。





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