第10話魔導書の運命

『リイファールの家に一週間住むことになった私は、次第に彼女を自分の伴侶にしたいという気持ちに駆られていった。しかし彼女は「私は舞の才能と引き換えに未来の幸運を失った。だから結婚しようとしたら、私もあなたも不幸になる。」と告げられた。それはどうしてと尋ねると、彼女は言いよどんだ。それでも私は、ここで行く当てのない旅を終えて、リイファールと一緒に結婚して暮らすつもりだった。しかしその夢はあいつが砕くことに・・。』




 レストランを出てリイファールの家へと向かって歩き出した全治と眷属達、全治はリイファールの荷物を持っている。

「悪いわねえ、重ね重ね世話になって。」

「いいですよ、その足じゃ当分は動きづらそうだし。」

「そうね。あっ、その角を右に曲がって。」

 そんな全治と眷属達を見つめる者がいた、現実世界から来た高須黒之である。

「見つけたぞ、全治。後は着けて行けば、きっとガエターノに会えるだろう。しかしこの後は全治にとっておきの罠を味合わせる予定だったのに、ガエターノがこんなことをするとはなあ・・・、本当に想定外だぜ。」

 黒之は、心の中でガエターノについて愚痴をこぼしていた。



 レストランを出てから十分後にリイファールの家に到着した、それは赤レンガの二階建ての家だった。

「凄く立派だね、家族の方はいるの?」

「いや、ここにはあたしだけしか住んでないよ。」

「えっ、一人暮らしですか?」

「驚くのも無理ないだろうね、一人暮らしには広すぎるし。ここは私の父さんの実家だった、けど父さんも父さんの両親も亡くなって、私が住むことになったんだ。」

 全治と眷属達はリイファールに導かれて、家の中に入った。中はかなり広く、持ち主が相当の金持ちだったことが分かる。

「中も凄いなあ、一人で暮らすにはもったいないなあ。」

「確かに、言えているわね。それよりお茶飲まないかい?」

「はい、お願いします。」

 リイファールがお茶を入れ、全治と眷属達がソファに座った。リイファールがお茶をよそって席に座ると、全治に話しかけた。

「ところで、あんたは旅の者かい?」

「はいそうです、眷属達と一緒に。」

「それは見れば分かるよ、ていうかあんたもしかして魔術師?」

「はい。」

「そうだと思った、どうして旅をしているんだい?」

「僕の故郷が荒れ果ててしまい、住めなくなってしまいました。だから暮らせる所を探して旅をしています。」

「あら、気の毒だねえ。どうしてあんたの町は、荒れ果ててしまったんだい?」

「ガエターノのせいです。」

「何だって・・・。」

 リイファールは絶句した。

「あれ?ガエターノを知っているのですか?」

「そうなんだ・・・・あたしは見ての通りダンスが得意で、ダンサーになるのが目標だった。けどあくる日から調子が悪くなって、スランプになっちゃったのよ。それでも練習は続けなければならない、そう思うと嫌な気分になったものよ・・・。早くスランプが治ればいいのに・・・ってね。ガエターノと出会ったのはこの時だった、私と契約すれば私は世界一のダンサーになれると言ってきたガエターノと、私は躊躇なく契約をした。そして私のダンスは以前より良くなり、スランプも治った。けど私はガエターノの契約により、『決して有名にはなれない』という制約が私についたの。」

「決して有名になれない・・・、それは本当なの?」

「ああそうさ、三年前にあの店で踊っていたら、劇団の監督という客から『ぜひ、我が劇団で踊ってください』という申し込みがあったんだ。もちろんあたしは申し込んださ、それで当日に車が来て劇団に行くと言われて待っていたけど・・・・来ることはなかった。後で聞いた話だと、申し込まれた後に監督を乗せた車が事故に遭い、監督がポックリ死んだから話が、なくなったという訳なんだよ!!」

 リイファールのセリフに、徐々に気持ちがこもり、最終的に泣き出してしまった。

「そうか・・・それはかなり残念だね・・・。」

「おや、暗い気分にさせて悪かったね・・・・。食事の支度をするから、のんびりしていきな。」

 リイファールは、涙を拭ってキッチンに向かった。





 翌朝、全治はリイファールと一緒に朝食を食べていた。その時、リイファールが切り出した。

「ねえ・・・これからは私と暮らさないかい?」

「え・・・・どういうこと?」

「あんた、行く当てのない旅をしているんだろう?だったらここで終わらせて、新しい生活を始めないかい?」

「ごめん・・・・出来ない。」

 全治は即答した。

「どうしてだい?悪くないと思うがねえ・・・。」

「僕は自分の魔導書をガエターノに奪われてしまった、だから今は名前だけの魔術師なんだ・・・。」

「本当かい!?それなら私が頼み込んでみるよ。」

「えっ!!それはまずいよ、あいつが簡単に返してくれる訳がない。」

「大丈夫だよ、今日実はガエターノに会う事になっているんだ。絶対に返させて見せる、そして幸せになろう。」

 全治の懸念もよそに、リイファールは胸を張って言った。その後も全治はリイファールに「やっぱりよしたほうがいい。」と説得したが、余裕で楽天的なリイファールには届かなかった。


 十分後にリイファールはガエターノに会いに出かけた、全治が奥に行こうとした時、リイファールの大きな声がした。

「あら!!ガエターノじゃない!!」

 なんと玄関前で、ガエターノに遭遇したという。全治は慌ててドアを開けた。

「ガエターノ!!」

「おお、また会ったかチンカエ。実は魔導書のことで話が・・。」

「それより、その魔導書をチンカエに返してくれないかい?」

「リイファール、割り込むな・・・。」

「ねえ、頼むよ。後で何でもするから。」

「もう一度言う、割り込むな・・・。」

「お願い、あたしの一生のお願い!!」

 するとガエターノは懐から紙を出すと一気に破いた、そしてリイファールが血を吐いて倒れた。

「ああっ・・・そんな!!」

「チンカエ、この魔導書の事だが、封印を解いたのに拒むように開かないんだ。色々試したが、やはり元持ち主に聞いた方がいいと思ったんじゃ。」

「どうして・・・どうしてリイファールを殺した!!」

 怒鳴りながら問う全治に、ガエターノは答えた。

「邪魔だったから。」

 その時、ガエターノが持っていた魔導書が宙を舞って、ある者の手元に渡った。ある者とは、高須黒之である。

「あっ!!貴様、何者だ!!」

「黒之君じゃないか!!どうしてここに・・・?」

「本来ならばこの魔導書は永久に封印されるはずだった・・・、しかしガエターノとかいう愚か者が封印を解いたと聞き、回収しに来た。」

「何を言うか、それを渡せ!!」

 ガエターノは黒之に向かってきた、しかし黒之は殺さない程の攻撃でガエターノを寄せ付けない。しかしガエターノも諦めない。逃げる黒之に、追いかけるガエターノ。そしてさらにそれを追いかける、全治と眷属達。追いかけてしばらくすると、上空から魔導書が落ちてきた。

「あっ、しまった!!」

「何てことだ!!」

 そしてその魔導書を全治がキャッチした、すると魔導書が光り輝いてその光が全治を包み、少し経つと光は消え全治は本当の姿に戻っていた。

「良かった・・・、戻ってきたんだ、僕の魔導書。」

「良くないわ、それを渡せ!!」

「何を、それは私のだ!!」

 黒之とガエターノが襲い掛かってきた、しかし全治は瞬間的に呪文を唱えた。

「ケラウノス・ジュピター・セル!!」

 黒之とガエターノに、雷が束になって落ちてきた。二人は大きな悲鳴は轟音にかき消され、二人はそのまま気を失った。

「ふう、これで良し。」

「おお、全治様が!!元に戻った!!」

 眷属達は大きな声で喜んだ。しかし全治は、死んでしまったリイファールが哀れに思えた。




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