第9話心魅せられた踊り子
『旅路を行く途中、私はとある踊り子と出会う。踊り子の名はリイファールといい、大きな町の有名的な存在だった。彼女は大変楽観的でいい加減な人に見えるが、踊りの腕前は折り紙付きで、賞賛と憧れの声が鳴りやまなかった。しかし私はある時、そんなリイファールの秘密を知ってしまう。それは私の前に現れる、憎き奴も関わっていた。一体、この運命は何なんだ・・・・?』
給料をヤーブから貰った全治と眷属達は、その日の内に宿を出て旅路を歩いていた。しかしガエターノに魔導書を奪われたことで、全治と眷属達は不安を抱えていた。
「全治様、これから大丈夫でしょうか?」
「うーん・・・、不安はあるけど、何とかなると僕は信じたい。」
「そうよ、諦めなければ希望はいつかやってくるから!」
ルビーが励ます声で言った。
「そうですね。唯一の救いはこれまでに、黒之のものと思われる何かが無いことです。」
「うん、でもまた何かしてくるかも・・・、油断せずに行こう。」
全治と眷属達は、一歩一歩踏みしめて歩くのだった。
一方、魔導書をガエターノに取られたことを、別の不安としている者がいた。現実世界の高須黒之である。
「くそっ!!ガエターノめ、余計なことを・・・!!」
「予想外だったな・・・、まあこれでガエターノが全治を葬ってくれたら、幸運だな。」
「何!!それじゃあ、ダメなんだよ!!」
「ほう、何がダメなんだ?結果がどうあれ、全治が死ねば我はいいと思うが・・・。」
「全治は・・・俺の手で倒さないと駄目なんだ・・・、それが定めというもんだろ!!」
「でもお前が作り出した世界で全治が死んだら、お前が全治を殺したも同然である。それなら何がダメだと言うんだ?」
「・・・ガエターノがゼウスの魔導書を完全に使いこなせる、保証が無いということだ。神の道具というのは、神自身と与えられた者以外が使うと、天罰が下るんだろ?もしガエターノに天罰が落ちたら、魔導書が再び全治の元に戻る可能性もある。さらに天罰でガエターノが死んだら、この世界自体がなくなってしまうだろ!!」
「なるほど・・・因果転送で作った世界は秩序が乱れると同時に消滅し、送り込まれた者たちは元の世界に戻る。ガエターノはこの世界において、運命のピース。確かに守らねばな。」
「やっと分かってくれたか、クロノス・・・。」
「それで、お前ならどうするんだ?」
「ガエターノから魔導書を奪って、俺が魔導書を管理する。」
「そうか、では行くがいい。」
クロノスは黒之に、庇護をかけた。そして黒之は因果転送の扉を開く。
「全治、お前に奇跡の機会は与えない・・・それを思い知らせてやる!」
そして黒之は、扉をくぐって行った。
全治と眷属達は、道を進んで大きな町に着いた。今までの町よりも建物が大きく、都会のような雰囲気を感じた。道行く人も多く、いろんな方向を向いて歩いている。
「これは凄いところだね・・・。」
「どこもかしこも人だらけだ・・・、こんな所は初めてだ。」
「それにしても、お腹すいたなあ・・。早く食事にしよう。」
「そうだねホワイト、えーっとどこにしようかな・・・。」
全治が辺りを見回していると、大人な雰囲気のレストランを見つけた。
「何か、あのお店いいな。」
「全治様、違うお店にしましょう。あのお店は、少し値が張る店のような気がします。」
アルタイルが全治に言った。
「うーん、確かに。他を探そう。」
全治と眷属達は違う店を探し回った。ところが行く先の店は、満席か定休日で入れない。
「中々、良い店が見つからない・・・困ったなあ。」
「全治様、やはり一番先に見つけたあの店にしましょう。」
「私も賛成です、多少の高さは想定しておきます・・・。」
眷属達は空腹の限界を迎えていた、そしてあのレストランへ行って中へ入った。
「いらっしゃいませ、お席に案内いたします。」
「よかった・・・、これで食事が出来る。」
全治と眷属達は席に着いた、全治が辺りを見回すとお客の数が今までの店よりも少ない。気になった全治は、注文を取りに来た店員に尋ねた。
「ところでこの店は、どうしてお客が少ないの?」
「ああ・・・このレストランは、ワインやウイスキーなどの酒と料理を楽しむレストランなんだ。だから時間的には空いているんだ。どうしてそんなこと訊くの?」
「他の店は、満席で入れなくて・・。」
「この町は働く人が多いから、みんなお昼は食堂で食べるんだ。ところで、飲み物はいかがでしょう?」
「うーん、お酒は苦手だから料理だけにします。」
全治は自身と眷属達の注文を告げ、料理が来るのを待った。すると突然照明が少し暗くなって、奥からスーツをきた店員が現れた。
「皆様、本日は当店にお越しいただきありがとうございます。只今よりショータイムです。リイファールの優雅な舞を、演奏と一緒にお楽しみください。」
店員はそう言うと奥に下がり、バイオリンとフルートとトランペットの奏者三人と、スタイル抜群でセクシーな服装のダンサーが現れた。
「あの人、綺麗だな・・。」
リイファールは音楽に合わせて、優雅な舞をする。肉体と技術がもたらす完璧な芸術に、全治は心を奪われ見とれていた。
「全治様、料理が来ましたよ。」
「え?ああ、ありがとう。」
ホワイトに言われて全治は我に返った、全治は料理を食べながらもリイファールの舞を眺めていた・・・その時だった。
「ドタン!!」
「あっ、転んだ!!」
リイファールが転んだ音に気付いた全治は、リイファールの所へと向かった。
「大丈夫ですか!?」
「ああ、ドジをしてしまったね・・ありがとよ。」
リイファールは立ち上がろうとしたが、顔をしかめたまま立てなかった。
「ああ・・・これはやってしまった・・・。」
「リイファールさん、もしかして捻挫ですか!早く休憩室へ!!」
「僕の肩を貸します、どうぞ。」
全治はリイファールの肩を持って、レストランの休憩室へと向かった。三人の奏者にお礼をされ、全治は自分の席へと戻って行った。そして食事を終え、会計の後に問題が起きた。
「あっ・・・・お金、ほとんどない。」
「やっぱり値が張る店だったようね・・・、これは野宿することになりそうね・・・。」
全治と眷属達が店を出ようとした時、トランペットの奏者に呼び止められた。
「あの、リイファールがあなたにお礼がしたいと言っています。」
「お礼ですか・・・わかりました、彼女の所へ案内して下さい。」
奏者に連れられ、全治と眷属達は休憩室に入った。
「失礼します。」
「そんなかしこまらなくていいよ、さっきはありがとさーん。ところで、お礼は何がいいんだい?」
「実は今日、野宿しようと思ってたんです。食事にお金をほとんど使ってしまって・・、だから一泊だけ出来るようなところってありますか?」
「ああ、だったら家のとこへ来なよ。」
「いいんですか?」
「もちろん、お安い御用さ。」
こうして、全治と眷属達はリイファールの家へ行くことになった。
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