第7話ミアレクルの花屋

『ある町に到着した私は、町の辺鄙なところにある花屋の事を知った。何でもその花屋は、一年中必ずどんな花でもずっと花が咲いているという。ただこの店の元の店主は、ある日突然失踪していまい、今はミアレクルという女が店主をしている。私はその花屋が気になってしまい、覗きに行った。そしてミアレクルの姿を見た時、私の心に花が咲いたかのような、ふんわりした気持ちを感じた。』




 リンエイの道場を出た全治と眷属達は、町を出て山道を歩いていた。

「それにしても、シャンメイが魔術師によって生み出された人間だったなんて。」

「ああ、驚きだよ。」

 全治がリンエイから聞いた話によると、リンエイの師匠である轟空には一人娘がいたが、病気を理由に亡くしてしまった。悲しみに暮れ修行もままならない轟空の所に現れたのが、あのガエターノである。ガエターノは死んだ娘の肉体に魂を入れ、シャンメイを生み出した。しかしガエターノは轟空に「その娘は戦いに負けると、死んでしまう。だから戦いで負けることが無いように。」と伝え去って行った。轟空はシャンメイに奥義を伝授していたが、道場破りや弟子や自身と戦わせることはほとんどしなかったそうだ。

「一度だけリンエイと試合をさせたことがあるそうですが、その時は轟空が試合を中断させたそうなんだ。」

「それにしても、ガエターノは凄い魔術師ですね・・・。今の全治様に勝てる見込みがあるかどうか・・・?」

「アルタイル!!全治様が負けると思っているのか!?」

 ホワイトがアルタイルに食ってかかった。

「いえ、決してそんな・・・。でも、魔導書は現在使えない状態ですし、もしここでまた黒之の攻撃にあったら・・・。」

 全治が手放さずに持っている魔導書は、黒之が挟んだしおりの封印により開くことが出来なくなってしまった。全治は今、かなり苦境に立たされている。

「そうだね・・・・、今は慎重に道を進もう。」

 全治と眷属達は慎重に歩いた、しかし特に異変の無いまま町の入り口に到着した。

「特に何も無くて良かった・・・。」

「でも気を引き締めて行かないとね・・・。」

 全治と眷属達が町に入ると、突然何かを抱えた男が疾走して全治達の前を横切った。そして左から女性の叫び声がする。

「全治様、あいつ泥棒です!!」

「捕まえないとね、アルタイル頼む!!」

 アルタイルが猛スピードで男に追いつき、男の左肩を鷲掴みした。男が抵抗し走るのを止めた隙に、大きくなったホワイトが男にのしかかった。

「よし、ありがとう!!誰か、お巡りさんを呼んで!!」

 全治は大声で周りに呼びかけた、そして駆けつけたお巡りさん二人が男を連れて行った。全治と眷属達は、先程叫んだ女性に声をかけられた。

「ありがとうございます・・・。」

「どういたしまして、僕はチンカエ。」

「私はミアレクル、それじゃあね・・。」

 ミアレクルはとぼとぼしながら歩くと、潰れてしまった花束を拾った。

「あ・・・・しまった・・・。」

 全治と眷属達は全てを察した、男が抱えていたのがあの花束で、ホワイトがのしかかったせいで、潰してしまったのだ。しかしミアレクルはもう去って行った。

「全治様・・・僕のせいで・・・ごめんなさい。」

「いいよ、でも明日謝りに行かないと。」

「でも、ミアレクルていうあの方がどこに住んでいるのか知らないとなあ・・。」

 全治と眷属達は悩んだ、しかし今はそればかりを考えている場合では無い。

「今夜の宿、どうする?」

「正直今の我らは無一文です、よくこの時まで生きていたものですよ。」

「でもまたジョンみたいな優しい人に出会えるとは思えないし・・・。」

 しかしそんな時、奇跡が起きた。偶然、全治達の活躍を見ていたヤーブという日焼け肌の男から、「明日から一週間、住み込みで働いてくれないか?もちろん給料は出すよ。」と声を掛けられた。全治達は二つ返事で引き受けた。ヤーブは民宿を営んでおり、以前声を掛けた知り合いが来れなくなってしまい、困っていたところを全治達に出会ったという事だ。そして全治と眷属達は、喜びを胸にヤーブの宿へと向かって行った。



 翌日、全治と眷属達はヤーブの民宿で働いていた。

「掃除、終わりました。」

「ありがとよ。そうだ、お使いを頼まれてくれないか?」

「わかりました、何をすればいいですか?」

「フロントに飾ってある花瓶の花を変えようと思って、二日前に花屋で予約を取ったんだ。君にその花を取りに行ってほしいんだ。」

「分かりました、それでその花屋はどこにありますか?」

「ここを左に曲がった通りのさらに左に曲がった先にある、黄色い百合の看板が目印だ。」

「わかりました。」

 全治は民宿を出て言われた通りの道を進んだ、そして十分後に黄色い百合の看板を見つけた。全治が店内に入った時だった・・・。

「いらっしゃいませ・・・・あなたは昨日の!!」

「あっ、ミアレクルさん。」

「どうしてここに来たの?」

「実は今、ヤーブの民宿で働いているんだ。そして二日前に予約した花を受け取りに来たんだ。」

「そうでしたか、少々お待ちください。」

 少しすると、ミアレクルが青と赤の花の花束を持ってきた。

「はい、どうぞ。」

「ありがとう。後、昨日はごめんなさい。」

「えっ・ああ、泥棒の事ね。あの方達は、使役している使い魔なの?」

「ああ、正確には眷属だけどね。」

「そうなんだ、昨日はねとてもいい注文があったから、配達する予定だったんだ。でも花が潰れてしまって、結局無かった事になりました・・・。」

「そうでしたか、潰れてしまった花には申し訳ないです・・・。」

「それにあの花、ここで取り扱っているなかで一番高いのなんだ。一束で家が買える程よ。」

「そんなに高価なものだったなんて・・・・、弁償しないと!」

「その必要は無いわよ、もう済んだ事ですから。」

「そうですか、それでは失礼します。」

「はい、ありがとうございました。」

 ミアレクルは笑みを浮かべながらお辞儀をした、見た目は少し上の姉のようなのだが、子供っぽい所があって可愛い。そういえば彼女以外の人を店内で見かけなかった、すると彼女はひとりで経営しているという事か?

「一人で店をするって、大変そうだなあ・・・。」

 全治は感心しながら、ヤーブの民宿に戻った。

「ヤーブさん、はいどうぞ。」

「おお、ありがとう。」

 ヤーブは全治から花束を受け取ると、花瓶のしおれた花と入れ替えた。

「ところで一ついいですか?」

「ん?どうした。」

「ミアレクルは一人で花屋を営んでるの?」

「まあそうだな、十年程前までは父親と二人でしていたんだ。」

「ミアレクルの父親は、もういないのですか?」

「ああ、亡くなっている。ただ、その理由については・・・人前では言えない。」

「そうですか・・・。」

「お前、ミアレクルの事が気になるのか?」

 今度はヤーブか質問してきた。

「うん、彼女一人で頑張って、凄いなあって思ったんだ。」

「そうだろ、でもそれだけじゃない。ミアレクルには花を常に咲かせる力があるんだ。」

「本当ですか!!」

「ああ、だから花屋を続けられるんだ。」

 全治はミアレクルに対して、ますます興味が湧いた。





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