第6話明かされた事実と恋愛

『シャンメイの目的地に着いた私は、そこで大いなもてなしを受けた。・・・・盛り上がりも佳境に入った時、ちょっとした武術大会が開催され、シャンメイとその弟子が戦った。・・・しかしここで私はシャンメイに隠された驚愕の事実を知る、彼女の出生・・・・その生みの親はなんと・・・そして私は再び故郷の荒廃を思い出すのだった・・・。』




 宿を出たシャンメイと全治は、シャンメイの目的地である道場へと足を運んだ。

「ねえ、シャンメイの目的地の道場ってどんなところ?」

「ああ、私の師匠・轟空様の一番弟子であるリンエイが開いている道場でな、飛翔風潮流拳の流儀を教えているんだ。」

「じゃあ、昨日見たのもその飛翔風潮流の技の一つなの?」

「ああそうだ、あれは私の一番の得意技だ。」

「凄いね、君の技は。」

「何を言うか、轟空様とリンエイ様に比べれば私なんてまだまだだ。それより私は、そなたの魔術が見たい。」

「え・・・?僕の魔術・・・。」

「ああ、治療だけじゃなくてもっといろんなことが出来るんだろ?なあ、一度でいいから見せてくれないか?」

 全治は悩んだ、肝心の魔導書は原因不明の縛り上げにより使用不能になってしまった。全治自身も魔法のようなことはできるが、チンカエの姿になってしまっているのでそれも使えない・・・。

「あの・・実は魔法が使えなくなってしまいました・・。」

 全治は打ち明けることにした。

「ん?どういうことだ?」

「僕の調子はいいんですけど、本の方が・・・。」

 全治は魔導書をシャンメイに見せた、シャンメイはとても驚いた。

「これは・・・、本が縛られている。これ、お前が縛ったってことは無いのか?」

「ううん、朝起きて気が付いたらこうなっていた。」

「ちょっと待て、私ならほどけるかも・・・。」

 シャンメイは魔導書の封を破ろうとしたが、武術に長けた彼女でも封を破ることは出来なかった。

「駄目だ、私じゃ力不足だ。」

「いいよ、また封を破る方法はまた見つかるかもしれないから。」

 気楽に言う全治だが、心の不安は無くせなかった。

「しかし、何者かの仕業に違いないが・・・・お前、心当たりはあるか?」

「分からない。」

「でも、眷属達はちゃんと使えているようだし、お主が特別な者だということに変わりは無い。」

 すると全治は胸の鼓動を感じた、シャンメイの凛とした顔に勇気を貰ったという感覚を感じた。

「あ・・・ありがとう・・・シャンメイ。」

「チンカエ、顔が赤いぞ?」

「ああ、ごめん。熱がある訳じゃないんだ。」

 緊張で活舌が悪いのを感じた全治は、あの時の事を思い浮かべた。現実世界で小学一年生だったころ、川原朱音という女の子と一緒に運動会の旗を作っている間も、似たような感覚を感じていた。この世界に来てハルと一緒にいた時も感じていた、何故がぼーっとして好意をそそられる不思議な感じ。

「何だろう・・・、今まで魔導書のことが気がかりだったのに、少しの間気にならなくなった。これは愛なのか、それとも恋なのか?」

 全治はこの不思議な感覚を、世界の謎としてずっと考えることにした。




 宿をでてから歩いて数分後、シャンメイの目的手である道場に到着した。入り口の門は瓦屋根の質素なものだが、大きさと年季のためか堂々と見える。

「ここだ、長かったがやっと到着した。」

「凄く大きいね。」

 ここでシャンメイが、「私が開ける」と全治に言って、門の前に進むと大声で言った。

「飛翔風潮流拳継承者にして轟空の一番弟子・シャンメイ、ここに参る。門を開けたまえ。」

 すると閉じていたもんがゆっくりと開いた、そして左右の門から二人の青年が現れた。

「シャンメイ様、長旅ご苦労様です。」

「出迎えありがとう、こちらはチンカエといって、道中世話になったんだ。だから彼も入れてくれないか?」

「はい、ではどうぞ。」

 シャンメイと全治は門をくぐって、道場の敷地内に入った。そして建物内へと入ろうとすると、大柄でいかつい男が出迎えた。チンカエと同年代だが、見た目では完敗している。

「おおシャンメイ、良く来られた!そなたの到着を待っていたぞ。」

「リンエイ様、お待たせしました。」

「ん?こちらの方は・・・。」

「ああ、チンカエという魔術師だ。道中世話になった。」

「そうでしたか。チンカエ、こちらとして礼を言わせていただきます。」

「いいえ、とんでもない。」

 その後、全治はリンエイの好意で一休みをした後、昼食を食べた。しかも今回はシャンメイが来たという事で、大鍋でつくる鍋料理を食べた。材料は質素なものだが、集団で食べると一段と美味しい。

「美味しい、味が体に染みる。」

「気に入っていただけて良かった。」

「リンエイ、ちょっといいか?」

「はい、シャンメイ様。」

 シャンメイがリンエイを連れて、道場の裏側へ向かった。

「シャンメイ・・・・一体どうしたんだろう?」

 そして数分後、シャンメイとリンエイが皆の前に現れると、シャンメイが言った。

「これより、リンエイと試合をする。」

 全治と眷属達と弟子たちは、凄く驚いた。

「おお!シャンメイ様がリンエイ師範と試合!!」

「それは面白そうだな!!」

 弟子たちはどっちが勝つかで盛り上がっているが、リンエイは何故が気乗りしない顔をしている。

「リンエイ・・・どうしてそんな顔をしているんだろう?」

 全治が疑問をもっているのをよそに試合が始まった、試合の主導権を握っているのはシャンメイで、リンエイは防戦一方である。

「リンエイ師範が押されている・・。」

「流石シャンメイ様だ。」

 しかしシャンメイは試合中のリンエイの戦い方に、不満を感じていた。

「リンエイ!!本気で来い!!」

「しかし、シャンメイ様は・・。」

「私が轟空様の一番弟子だから気を使っているのか?なんて愚かな・・・、例え相手がどんなのだろうと、その相手が届かぬほどの高みを見せるのが、飛翔風潮流の神髄じゃないのか!!」

「はっ!!」

 リンエイは何かを思い出したが、すぐに顔をしかめた。

「確かにシャンメイ様の言う通りだ・・・でも・・・。」

「私は以前、そなたと戦って負けた。だから本気でそなたに勝ちたい。」

「シャンメイ様・・・それなら、全力で参ります!!」

 そしてリンエイは、本気を出してシャンメイに挑んだ。




 結果は意外にもあっけなかった、昨日その強さを見せたシャンメイが、赤子のようにリンエイに力で負けているのだ。

「流石師範だ・・・。」

 弟子たちはリンエイの強さに呆然としている。

「凄い・・・何て強いんだ・・。」

 全治と眷属達も驚いている。仁王立ちするリンエイに、シャンメイが言った。

「初めて試合をして、我を負かしたのはそなただ。やはりつよ・・・。」

 とその時、シャンメイが突然血を吐いて倒れた。全治はあの時のハルの事を思い出し、シャンメイに駆け寄った。

「シャンメイ、しっかり・・・・。」

 全治はシャンメイに触れて察した、すでに死んでいた。

「シャンメイ・・・・やはり試合はするべきじゃ・・。」

「ええ、試合はやらなきゃよかったですね。」

 突然全治の目の前に、邪悪な顔の年老いた魔術師が現れた。

「あなたは誰?」

「わしはガエターノ、シャンメイの生みの親だ・・・。」

「ガエターノ・・・・!!僕の町をあんなにした・・。」

「ああ、するとお主はあの町の住人か。いやあ、町を不幸に巻き込むのはどうも楽しくてな・・。」

 ワハハハと笑うガエターノに、全治は怒りに震えた。

「しかし、リンエイがシャンメイを殺すことになろうとは・・・師匠が知ったらどうなるか・・・?」

 リンエイは苦い顔のまま黙っていた、そしてガエターノはそのまま何処かへと去って行った。







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