第4話泉とハルの過去

『ハルと一緒に泉までの近道を進み、ついに泉へと到着した。そして水瓶に泉の水を汲んで、村まで帰ろうとした時だった。突然ハルが倒れて、血を吐いた。私は水瓶を持ちながらハルに駆け寄った、そしてハルは息も絶え絶えにこう言った。

          「これを・・・ジョンに・・・渡して。」

 ハルは懐からオレンジ色のペンダントを出すと、そのまま私の腕の中で息絶えてしまった。』



 ジョン達のために泉の水を取りに来た全治達は、ハルと出会い一緒に泉までの近道を進んでいた。

「あの森を抜けた先に泉がある、でもこの辺りはとても迷いやすいから、私の後についていってね。」

 こうしてハルを先頭に全治達は森の中を進んでいった、しかし何故か一向に森を抜けられない。

「すっかり迷ってしまいましたね・・。」

「もしかしてハルの奴、私達を歩き疲れさせてもう一度襲うつもりなんじゃない?」

「うーん、果たしてどうなんだろう?」

 眷属達はハルに対して疑念を持っていた、そして当のハルは困惑しながら歩いている。

「あれ?私、間違えたかな・・・?」

「・・・ねえ、本当にこの森の事を知っているの?」

「知ってるよ!だから任せて!!」

 ハルは自身満々に言うがやっぱり迷っている、ここで全治はアルタイルに指示を出した。

「ここから飛び上がって、泉がどの方角にあるか教えて。」

「わかりました。」

 アルタイルは森の木よりも高く飛び上がって周囲を見ると、下降して戻ってきた。

「泉はここから真っすぐにあります、この森を抜ければ泉に到着するのは間違いありません。」

「うーん、でも森を抜けられないとなあ・・・。」

 するとハルがハッと何か思いついたかのようにすると、地面にへたり込んだ。

「あれ?どうしたの・・・?」

「この森の道、変わっている・・・。えっ、どうして?今までこんなのじゃ、無かったのに・・・。」

 ハルはうろたえてしまった・・・その様子を見た全治は、何か異変が起きていると感じた。そしてハルに声をかける。

「もしかして、君がいた時とは森の環境が変わっているんじゃない?」

「そんなことないよ!だって私は、この山の力で生み出されたんだよ!!」

「生み出された?」

「うん・・・、誰が生み出したかは分からないけど、生まれた時からこの山の事皆しっていた・・。」

「そうか・・・じゃあ森の上を行こう。」

「えっ、出来るの?」

 全治は魔導書の空中歩行のページを開いて、呪文を唱えた。すると全治と眷属達とハルの体が、宙に浮きあがった。

「うわあ、なにこれ!!」

「これで空から、泉の所まで行こう。」

 そして全治と眷属達とハルは、森の木々より高く上がって、泉まで真っすぐ歩き出した。そして泉のほとりに着陸した。

「ここが泉か・・・、綺麗だな。」

「この山の泉は、山に生きる命を支えているんだ。昔からこの水は水神様が授けたものだって言われているわ。」

「そうなんだね、じゃあすくおう。」

 全治は水瓶を泉に入れて水をすくい、蓋をしたその時だった・・。突然大きな水しぶきが上がり、泉から巨大なカニが現れた。

「何だ、あの化けガニは!!」

「有り得ないわ・・・・、この泉は水は綺麗だけど、あんなに大きなカニがいるなんて知らない・・・。」

 眷属達とハルは凄く驚いた、するとカニは巨大なハサミでハルを掴もうとした。

「きゃあああ!!」

「危ない!!」

 全治がハルの身を横に突き飛ばし、戦闘スタイルのホワイトが巨大なハサミを受け止めた。

「チンカエ・・・。」

「大丈夫かい・・・?」

「ええ・・。」

 ハルの目には、冴えないながらも我が身を助けてくれたチンカエが、男前に見えていた。

「眷属達、あのカニと戦ってくれ。私は何が出来るか考えてみる!!」

「わかりました、全治様!!」

 ホワイトとルビーとアルタイルはカニと戦い、全治は魔導書のページを開いた。そして五十五ページを開くと、全治は呪文を唱えた。

「命ある水よ、我の命の元に、固まりて敵を封殺せよ!!」

 すると泉の水がカニを包み込み、一気に凍ってしまった。

「す…すごい。」

「よし、皆で総攻撃だ!!」

 ホワイトが切り裂き、ルビーが火炎を放ち、アルタイルが特攻し、全治は魔導書から雷を放った。それによりカニは倒れたかと思うと、何故か跡かたもなく消えた。

「それにしても何だったんだ・・・?」

 疑問の残る全治だったが、目的の泉の水は手に入れた。

「さて、山を降りよう。」

「あ・・あの・・。」

 突然ハルが声を掛けた。

「どうしたの?」

 全治がハルの方を見ると、ハルは顔を赤くしていた。

「あの・・・私の事・・助けてくれてありがとう・・もし・・・。」

 とここでハルに異変が生じた、何と血を吐いて倒れてしまったのだ。

「ハル!!」

 全治がハルを抱えると、ハルは息も絶え絶えに言った。

「どうやら・・・もう・・・要らなくなったようね・・・あなたにお願いが・・・これを・・・・ジョンに・・・渡して・・。」

 そしてハルの体から力が無くなった。

「ハル、ハル!しっかりして、ハル!!」

 全治は叫び、眷属達はそれを悲しみの目で見つめていた。




泉のほとりでハルを弔った後、全治は村へと戻ってきた。ジョンを含む村人達全員が、全治を称賛し感謝した。

「本当に、ありがとう!!」

「ところで、この泉の水はどうするの?」

「ああ、明日の村祭りで神様に捧げるんだ。良かったら明日の村祭りを見ないか?こちらとしては、お礼もしたい。」

「見ます。ところで、ジョンに渡したいものがあります。」

「俺にか、何だ?」

 全治は懐からオレンジ色のペンダントを出すと、ジョンの顔色が変わった。

「これは・・・おい、ニア!!」

「どうしたの・・・っ!これは、まさかハルの!!」

「ハル・・・どうしてジョンが、ニンフの名前を知っているの?」

「ハルはニンフでは無い、私の愛娘だ・・・・・!!まさか、そんな・・。」

 何かに気づいたジョンは愕然とした、そして全治にハルの事を話した。

「ハルはニアとの間に生まれた、花のような娘だった。ところが十四歳の時、友達と山に行ったきり行方知らずになった。私とニアは酷く悲しみながらもどこかで生きていると信じていた・・・、しかしニンフになっていたとは・・・。」

「このペンダントは、ハルがジョンと初めて町に行った時に買ってもらったもの・・・私たちの事覚えていたんだね・・・。」

 ジョンとニアは、ハルとの思い出を泣きながら噛みしめていた。そして全治も白く可憐な姿を頭に浮かべながら、泉のある山を眺めていた・・・。




「失敗か・・・おのれゼウスめ・・・!!」

 現実世界では、黒之が悔しながら拳を握りしめていた。

「あの魔導書が全治の手元に渡ったとなると、これはかなりの速度で物語の攻略が進んでしまう・・・。」

「クロノス様、あの魔導書を奪う事は出来ないの?」

「すまない・・・、ゼウスから干渉された時、神の力を通さぬ結界を張った。つまり私の力でも奪えないが、無力化することはできる。」

「本当!!どうするの?」

 黒之がゼウスの魔導書を封じるのは、この先の話である。

 







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