第3話山の白き可憐
『救われた村人への恩返しのため、山の奥にあるという湧き水を取りに来た。だがこの山にはハルというニンフがいて、山に立ち入る侵入者を襲っては追い払っているという・・・。私は村人から貰った地図を頼りに、湧き水へと続く山道を登っていた。・・・・・・・・すると私の目の前に、白髪の可憐な少女が現れて攻撃してきた。』
町を出て黄色いレンガの道を行くチンカエこと全治とその眷属達、しかし数時間も歩き続けたため強烈な空腹に襲われた。
「はあ・・・はあ・・・、お腹すいたなあ・・・。」
「全治様、私もです・・。」
「みんな、あの木陰で休もう。」
全治は道の右側にある大きな木を指さした、そして全治と眷属達は木陰に腰を下ろすと、歩き続けた疲れ故にそのまま眠ってしまった。
「ん・・・、あれ?ここはどこだ・・・?」
全治が目覚めると、何故か木陰ではなく家の中にいた。辺りを見ると眷属達も寝ており、一人の男性が話しかけた。
「おお気が付いたか、私はジョンだ。」
「僕はチンカエです。」
全治は口に出して違和感を感じたが、自分がチンカエになっているということで納得した。ジョンの話によると、町に野菜を売りに行った帰りに、木陰で眠っていた全治達を見つけ、様子を見た所かなり疲れていることを感じたので、開いている荷馬車の荷台に全治達を乗せて、家まで連れ帰ったという事だ。
「休ませていただきありがとうございます。」
「気にすることは無いさ、丁度飯が出来たから食べないか?」
「じゃあ、ありがたくいただきます。」
その時眷属達も目覚めたので、全治は眷属達に事情を説明して、ジョンと奥さんのニアと一緒に食事をした。皿に盛られたのは自家製野菜のシチューで、ジョン手作りのベーコンが入っている。
「美味しいです。」
「温かい食事は久しぶりだ!!」
「生き返る、とても最高!!」
「身に染みます・・。」
全治達には、何気ない料理が物凄く美味しく感じる程、空腹だったようだ。
「そうかそうか、そんなに美味いか!!」
「ところであんたたちは旅の者でしょ、どうして旅をするの?」
ニアが聞くと、全治は言った。
「実は住んでた町が廃れてしまって、行く当てのない旅をしているんです。」
「廃れた町って・・・ここから麓の方かい?」
「はい、そうです。」
「じゃあ、噂のガエターノが町を廃墟と化したというのは、本当だったんだ・・。」
ジョンとニアは震えていた、ガエターノがどれだけ恐ろしい存在かという事が分かる。
「よっぽど、ガエターノって恐ろしいのですね・・。」
「ええ。あなた、よっぽど苦労したわね・・。」
「今日はもう遅いから、家に泊まりなさい。寝床と風呂はあるから。」
「ありがとうございます。」
こうして全治と眷属達は、ジョンの家で一夜を過ごした。
翌日、全治と眷属達は朝食を食べていると、ジョンの家に一人の人間が慌てて駆け込んだ。
「ジョン、大変だ!!」
「一体どうしたんだ?」
「明日の村祭りに必要な湧き水を取りに行こうとしたけど、付き添いの用心棒が風邪をひいてしまった。このままでは、山に湧き水を取りに行けない・・・。」
「何だって!!」
「ありゃありゃ、本当に大変なことになったわね・・。」
ジョンとニアは途方に暮れている・・。
「一体どうしたの?」
「実は今日どうしても、山の湧き水を持ってこなくてはならないんだ。」
「でも、山へ行くのにどうして用心棒が必要なんですか?」
「実は・・・その山には今まで湧き水しかなかったんだが、数日前からこの山にニンフが住み着いてしまったんだ。そのニンフが山に立ち入る人を襲うから、山に入るときは用心棒が必要なんだ・・。」
「なるほど・・・、じゃあ僕が行くよ。」
「あんたが?危険だ、止めたほうがいい。」
「大丈夫、僕には眷属がついています、任せてください。」
全治は眷属達の方を見た、眷属達は頷いた。
「うーん・・・・、こうなったら任せよう。」
「ありがとうございます!!」
そしてジョンは、水瓶と山の入り口から湧き水までの地図を全治に渡した。そして全治は、山の中へと向かった。
山道を進んでいくと、道が険しくなってきた。そして森深くなっていく。
「地図によるともう少しだな・・・。」
すると全治は何かの気配を感じ、すぐに身をかわした。全治と眷属達が身構えると、白髪のニンフが現れた。
「ここから出ていって・・。」
「君が山のニンフ?僕はチンカエ。」
しかしニンフは、攻撃してきた。最初から敵だと思っている。
「もう一度言う、ここから出ていって・・。」
「はあ・・・、仕方ない。眷属達、お願い。」
「分かりました!!」
「行くわよ!!」
「おおせとあらば!」
ホワイトとルビーとアルタイルが戦闘スタイルになって、ニンフに攻撃を開始した。全治は雷を放とうとしたが・・・。
「あれ?出ない・・・。」
チンカエになってしまった影響で、雷が放てない。
「困ったなあ・・・。」
するとその時、全治の頭上から本が落ちてきた。それは全治を神の子にした、ゼウスの魔導書だった。
「あれ?どうして魔導書が?」
「それは・・・私のおかげだ。」
「あっ、ゼウス様。」
「クロノス・・・のせいで・・これ以上そなたを・・・助けられない・・・。」
クロノスの妨害なのか、ゼウスの声は途絶え途絶えになっている。
「後は・・・、そなただけで・・・。」
ここでゼウスの声は止んだ。
「ありがとう・・・でも今の僕に使えるかな?」
すると魔導書のページの一部が光りだした、そこをめくると何かの召喚方法が書かれていた。全治が呪文を読み上げる。
「冥界の獣よ、その三つ首の雄たけびを上げ、相手に死の宣告をするがいい!」
すると魔導書からケルベロスが召喚された、ケルベロスはそのまま眷属達に加勢しニンフを攻撃した。
「これで、ニンフを倒せるかな・・・?」
全治が眷属達とケルベロスを追いかけると、流石に数の力かニンフはボロボロになり、追い詰められていた。
「くっ・・・ここまでなの・・・。」
「もういい、攻撃しないで。」
「えっ・・・・?」
全治の指示により、眷属は攻撃を止め、ケルベロスは魔導書へと戻って行った。
「な・・何をする気なの・・・?」
「手荒なことをしてすまない、本当は湧き水を取りに来たんだ。」
「湧き水・・・・ああ、あの村の人たちに頼まれたのね。」
「でもその前に、傷の手当てをしないと。」
「私は大丈夫だから・・・。」
「気にしないで、眷属達がしたことだけど君を怪我させてしまったのは、僕の責任だから。」
全治はそういうと、魔導書の治癒魔法のページを開いた。そして呪文を唱えて、ニンフの怪我を直した。
「あ・・・ありがとう。」
「いいよ、ところで君の名前は?」
「私はハル・・・。湧き水の所まで案内してあげる。」
「いいの?地図ならあるけど。」
「私なら近道を知っている、そこまで案内するよ。」
「ありがとう。」
こうして全治達はハルと一緒に湧き水の所へと向かった、しかしこの先に黒之の仕掛けた罠があることは、まだ知るよしも無かった。
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