傷
僕は今、誰を選ぶかという選択を急に迫られた。
「あの、状況がよく分からないんですけど......と、とにかくみんな自分の教室に行きましょう」
各自、自分の教室に向かい、僕は教室に着くと瑠奈に話を聞くことにした。
「なにがあったの?」
「蓮は私が好きなんでしょ?なのに」
「ちょっと待った!みんな見てるから屋上行こう」
クラスメイトの視線が痛すぎて屋上のベンチに座って話すことになった。
「それで?なに?」
「蓮は私が好きなのに、みんな私から蓮を奪うって言うの」
「ごめん、全然分からない。そもそも瑠奈を好きなんて一言も」
その瞬間、瑠奈は僕に抱きつき、上目遣いで僕を見つめた。
「恥ずかしがらなくていいよ?私嬉しい」
「るるるる瑠奈⁉︎」
「抱きつかれて動揺してるんだ♡可愛い♡」
「そうじゃなくて!」
「蓮が私を好きになってくれるの、ずっと待ってたんだよ?誰にも奪わせない」
頭が混乱して言葉が出ない。ただ分かってるのは、美桜先輩がこの状況に関係してるってことだけ。
その頃美桜は、全校生徒が昇降口付近から居なくなったのを見計らい、瑠奈の下駄箱に大量のゴミを入れて教室に向かった。
そして蓮は瑠奈を振り切って教室に戻ろうとしたが、瑠奈に後ろから抱きつかれて身動きが取れないでいた。
「る、瑠奈?」
「私から離れちゃダメ。他の女を1ミリも近づけさせない」
「瑠奈はなにか勘違いしてるよ」
「してないよ?蓮が私を好きなのは事実」
瑠奈は僕の胸に手を伸ばし、さらに強く抱きついてきた。
「ほら、鼓動が早くなってる。私も心臓のバクバクが止まらないよ。蓮の背中にも伝わるでしょ?」
「ぼ、僕が本当に瑠奈を好きなら、瑠奈に直接そう言うよ」
「なら言って?」
「え?」
「好きって......言って?」
朝の会を知らせるチャイムが鳴り、僕は優しく瑠奈の手を自分の体から離した。
「......教室に戻ろう」
それから放課後まで、めんどくさい問題に巻き込まれないように仮病を使って保健室に居続けた。
そして放課後になると、雫先輩は指先に絵具のようなものを付けて保健室にやってきた。
「絵でも描いたんですか?」
「ちょっと、選挙ポスターの色塗りをね」
「頑張ってますね」
「蓮くんは頑張ることをやめたの?」
「なにを頑張るんですか?」
「今、裏で起きていることから逃げ出す?」
「裏でなにが起きてるんですか?」
「自分の欲望のために人の心を弄んでいる人がいるわ」
「美桜先輩ですよね」
「よく分かったわね」
「じゃなかったら、僕に誰を選ぶかなんか聞いてきません。なにか企んでるなら詰めが甘いですよね」
「そうかしら?だとしたら、もう問題は解決していると思うのだけれど」
「でも......」
「蓮くんは誰かを傷つけるのが怖いの。相手の誤解を解くことで傷ついてしまうんじゃないか。期待を裏切ってしまうんじゃないか。その考えが蓮くんを苦しめている。違う?」
「雫先輩って超能力使えたんですね。僕にも使い方教えてください。あと勉強も」
その時、昇降口の方から激しい物音が聞こえてきた。
「なんですか⁉︎」
「超能力より大事なことを教えてあげるわ。人の感情を大切に思える蓮くんは間違えていない。ただ、自分の感情を殺すことは後に深い傷になるわ」
「ハッキリ伝えて、相手が傷ついた後はどうすればいいんですか?」
「傷は治る。そう決まっているものよ」
「治らない傷もあると思います。雫先輩はその傷を背負っていませんか?」
「なにが言いたいの?」
「雫先輩は頭が良くて、なんでもできるし、人の心もあっさり読んじゃいます。でも、雫先輩は僕と同じ、自分の感情を殺して生きてる人だと思います」
「なぜそう思うのかしら」
「同じだから分かるんです。それに、僕は雫先輩の過去を知ってます......昇降口見てきますね」
なにも言わなくなった雫先輩の横を通り、保健室を出て昇降口に行くと、瑠奈の下駄箱から大量のゴミが溢れ出していて、睦美先輩が腕から血を流して泣いていた。
「どうしたんですか⁉︎」
「蓮‼︎その女に近づかないで‼︎」
「瑠奈?睦美先輩になにしたの?」
よく見ると、瑠奈は右手に血のついたカッターを持っていた。
「その女が私に嫌がらせをしたの‼︎」
「さっきの大きな物音は?」
「千華先輩と喧嘩して傘の投げ合いになった」
確かに、傘立ての周りには生徒の傘が散らばっている。
「でも、千華先輩はやってないって言ってた。睦美先輩以外あり得ない‼︎」
「だからってやりすぎだよ!睦美先輩、保健室に行きましょう」
「うん......」
睦美先輩の腕を掴み、僕の手に睦美先輩の血がついた瞬間、瑠奈は睦美先輩にカッターを投げつけた。
「瑠奈‼︎危ないって‼︎」
「なに汚い血で蓮を汚してるの?蓮、今すぐ手洗ってきて」
「瑠奈」
「早く‼︎」
「瑠奈‼︎」
「......」
「こんなことする瑠奈なんて......大っ嫌いだ」
瑠奈は唖然とし、靴も履き替えずに学校を飛び出して行った。
それを少し離れた場所で見ていた美桜は小さく呟いた。
「瑠奈、排除完了」
「瑠奈ちゃんの傷一つ、睦美さんの傷一つ」
「い、いつの間に!」
美桜の後ろには梨央奈がニコニコと笑みを浮かべて立っていた。
「最初から居たよ?次は誰に傷をつけるのかな?」
「お前に関係ないだろ」
「ありありの有里かすみだよ」
「なんだよ、その芸能人に居そうな名前」
「みんな、貴方の本性を知ったらどう思うかな」
「バラすの?」
「そんなことしないよ?貴方が膝から崩れ落ちる瞬間が見たいもん」
「随分と余裕だね」
「逆に、どうして低レベルの人間に怯える必要があるの?」
「はいはい。後に泣いて生徒会に入れてくれとか言っても入れてあげないから」
「どうぞどうぞ」
「チッ」
(なんなの。ずっとニコニコして気持ち悪い)
美桜は舌打ちして梨央奈を睨みながら帰って行った。
その頃蓮は、睦美を保健室の先生に任せて保健室を出た時、千華に話しかけられていた。
「蓮!一緒に帰ろ!」
「え......」
「久しぶりに蓮の家行っていい?」
「ダ、ダメです」
「なんで!」
「千華先輩、なんで瑠奈を痛めつけなかったんですか?」
「な、なんのこと?」
「瑠奈と喧嘩になっても、千華先輩なら一瞬で瑠奈を倒せますよね」
「瑠奈ちゃんは一応友達みたいなもんだし、それに......」
「なんですか?」
「蓮が私を好きなわけないじゃん。もう随分前に諦めてるよ」
「諦めてるのに僕の家に来たいんですか?」
「一発逆転とかあるかなーなんて、あははー......」
「諦めてないじゃないですか」
「やっぱり迷惑?」
「はい」
「そっか......ごめん、帰るね」
これでいいんだ。
「蓮くん」
「雫先輩......聞いてました?」
「えぇ。傷は治ると教えたけれど、もう一つ教えたことを覚えてないかしら」
「なんですか?」
「敵を間違えないこと。みんなに悪気はない」
「なんかもういいかなって。僕を中止にみんなが争うなら、僕がみんなに嫌われちゃえば解決じゃないですか」
「嫌われることを選んだ先は地獄よ」
「雫先輩が今いる場所は地獄ですか?」
「そうかもしれないわね」
「んじゃ、地獄の鬼じゃないですか」
「最近、よく私を馬鹿にするわよね」
「今だけですよ。生徒会長じゃない雫先輩は、何故か人を怒らないですから」
「調子に乗っているということね」
「違います違います!」
「ちょっと着いて来てくれるかしら」
「は、はい」
何故か雫先輩と二人で学校を出て歩いている。
きっと調子に乗りすぎた僕に罰を与える気なんだ!金持ちだから、家に拷問部屋とかあったりして......
そしてたどり着いた場所は、乃愛先輩がリハビリをする病院だった。
「入るわよ」
「はい」
病院に入り、ガラス張りのリハビリ室の前に来ると、雫先輩はその場にしゃがみ、身を隠した。
「蓮くんもしゃがんでちょうだい」
「はい」
中を見ると、千華先輩が梨央奈先輩に泣きついていた。
「蓮に嫌われた〜‼︎」
「よしよし」
「大丈夫。蓮は私が貰うから」
結愛先輩は千華先輩に缶のお茶を渡した。
そして乃愛先輩は、看護師さんに支えられて立とうとしていた。
「蓮は私のだしー!いー!」
「乃愛頑張ってー!ほら千華も」
「頑張れ〜......」
仲良く乃愛先輩を応援している目の前の光景に驚き、僕は思わず雫先輩の肩を揺すった。
「みんな仲悪そうだったのに、なんで?」
「タメ口になるほど調子に乗ってしまったのね」
「ご、ごめんなさい」
「みんな、演技していたのよ」
「なんのためにですか?」
「私の復讐のために......だから、しばらくはみんなを許してあげてほしいの」
「瑠奈は?演技なんですか?」
「瑠奈さんには言ってない。その選択で瑠奈さんを傷つけて、睦美さんにもみんなが演技だと伝えていない......可哀想なことをしてしまったわ」
「そうですね......」
「私が全部悪いの。恨むなら私を恨みなさい」
「怖くて恨めませんよ。変わりに、絶対生徒会長になってください」
「どうして?」
「悪を叩くには、もっと強い悪が必要ですから」
「やっぱり馬鹿にしているわよね」
「ごめんあそばせ」
「生徒会長になったら覚えていなさい」
「本当にごめんなさい」
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