笑う鬼と笑わない鬼
10月に入り、いつも通り登校すると、校門前で雫先輩に制服を渡された。
「今日から冬服よ」
「まだ暑いですよー」
「とにかく、クリーニングした制服持ってきたわ」
「ありがとうございます」
「今日は一人で登校なのね」
「たまにありますよ?瑠奈、たまに寝坊するので」
「まぁ、ちょうどよかったわ」
「なんかあるんですか?」
「これから蓮くんは、嵐のど真ん中に入ることになるの。みんなに悪気はない。敵を間違えないことね」
「え?なんでいつもハッキリ教えてくれないんですか」
「蓮くんには期待しているから」
「今なんて⁉︎」
「さぁ、早く教室に行きなさい」
期待されてる⁉︎雫先輩に⁉︎でも、なんの期待だろう。
教室に行き、林太郎くんとアニメの話をしていると、瑠奈が教室にやってきて満面の笑みで挨拶してきた。
「おはよう!」
「お、おはよう。なんかいいことあった?」
「にひひー♡なんも!マッチョもおはよう!」
「マッチョ⁉︎瑠奈、今俺のことマッチョって言ってくれたのか⁉︎」
「筋トレ頑張ってねー!」
「おぉ!頑張るぜ!」
「林太郎くん、いきなりスクワットしないで」
「悪い悪い。それより、今日から生徒会に立候補できるよな」
「雫先輩の圧勝でしょ。それに、雫先輩がいるのに他に立候補する人とかいないよ」
「でもさー」
急に外が騒がしくなり、林太郎くんは窓から校門の方を見た。
「あの人ならワンチャン勝てるかもな」
「ん?」
僕も窓から校門を見ると、赤髪の転校生が沢山の生徒に囲まれて、まるで有名人のようになっていた。
「なんであんなに人気なの?」
「モデルみたいなスタイルに整った顔立ち、そりゃモテるだろ」
「女子からも?」
「同性から好かれるって、相当性格いいのかな」
「僕はそう思わないけど......」
「なに見てるの?」
「梨央奈先輩、平然と教室に入ってこないでください。前も言いましたよね」
「あの人、たった数日で人気者だね」
「話聞いてます?」
「あの人が生徒会に立候補したら、校内戦争の幕開けだね」
「戦争⁉︎」
「ほら見て」
梨央奈先輩が校門を指差すと、さっきまで教室に居た瑠奈が、仲良さげに赤髪の転校生と会話していた。
「瑠奈⁉︎」
「どんな手を使ったのか、仲間を作るのが上手だね。あの人の選挙活動はもう始まってるね」
「だとしたら雫先輩ヤバいんじゃ」
「蓮くん、今まで雫を見てきたのに心配?雫はもっと前から行動してるよ」
「そうなんですか?」
「まぁ、楽しみにしてて!」
その日の昼休み、赤髪の転校生は自販機でジュースを買おうと手を伸ばす乃愛を見つけ、自販機のボタンを押した。
「ありがとう!って、お前か。またムカつくことでも言いにきたの?」
「違うよ。アンタ、蓮のこと好きでしょ」
「お前に関係ない。ボタン押してくれたことはありがとう。じゃあね」
「せっかく良いこと教えてあげようと思ったのに」
「なに?」
「アンタがその態度なら教えてあげない。蓮の秘密」
「蓮の?」
「聞きたい?」
「聞かせて」
転校生は乃愛の耳元で囁いた。
「蓮はアンタが好き」
そして転校生は、その場を後にしようとした。
「それだけ!じゃあね!」
「ちょっ!ちょっと待って!」
「ん?」
(釣れた釣れた)
「今の本当?嘘?」
「わざわざそんな嘘つかないよ。私と友達になってくれたらアンタの恋愛に協力してあげる」
「協力?」
「付き合えるようにサポートしてあげるってこと」
「でも、蓮が私を好きなら、告白すればいいだけじゃない?」
「タイミングを間違えたら付き合えないよ?それでもいいの?」
「嫌だ」
「私のアドバイスが必要でしょ?」
「うん」
「じゃあ、この話は二人の秘密だよ?」
「分かった」
その後すぐ、結愛にも同じく話しかけ、蓮が結愛のことが好きだということを植え付けて教室に戻った。
すると、雫と転校生は周りに聞こえない、小さな声で会話を始めた。
「
「まさか、雫から話しかけてくるとはねー」
「貴方と同じクラスで良かったわ」
「嬉しいこと言ってくれるねー」
「貴方のことを監視するのに困らないもの」
「雫変わったねー。中学の時はあんなにか弱い乙女だったのに」
「貴方は私のことが嫌いだったわよね」
「それがどうしたの?」
「貴方がインターネットに書き込んだ内容で私のお姉ちゃんは居なくなったの。貴方の投稿でいじめられたの」
「安心してよ。雫の大切なもの全部奪ってあげるから」
「今の私から奪えるかしら。もう、美桜さんの知ってる私じゃないわよ?」
「今月中に見せてあげるよ。雫の周りの人達が壊れて、学校全体が私の奴隷に変わる瞬間を」
「楽しみにしているわ」
すると、側に居た梨央奈はニコニコしながら美桜を見つめた。
「なに」
「なにも?」
「あっそ」
(笑う鬼と笑わない鬼ねー。梨央奈を見た時一目で分かった。私に梨央奈を欺くことはできない。とりあえず今日の夜、仕掛けるか)
そして夜になると、美桜は雫と梨央奈と蓮以外の元生徒会メンバーと瑠奈に電話をかけ「他の元生徒会メンバーが蓮を奪おうとしてる。友達とか関係ないって言ってたよ」と伝えた。
(これで生徒会選挙中のチームワークは壊すことができる。あとは梨央奈......あいつが邪魔だ)
美桜がそんなことを思っている頃、睦美は雫と電話をしていた。
「美桜は私達に仲間割れさせる気だよ!きっとみんなにも言ってる!早くみんなに伝えなきゃ!」
「まだ美桜さんを泳がせる必要があるわ」
「でも、みんなが喧嘩しちゃうんじゃ......涼風くんも巻き込まれちゃう」
「睦美さんは蓮くんの返事待ちよね」
「知ってたの?」
「もちろん。睦美さんが蓮くんを守ればいいのよ。きっと蓮くんからの評価も上がるわ」
「......頑張る」
(会長の考えが読めない......なんで起きそうな問題を予め防ごうとしないの......)
翌日、僕は自分の目を疑った。
下駄箱前で、結愛先輩と乃愛先輩が睨み合い、何やら揉めていたのだ。
そのすぐ近くでは、瑠奈と千華先輩が胸ぐらを掴み合って睨み合い、睦美先輩は一人で挙動不審になっていた。
僕には何が起きているか分からなかった。
「おっ!主役登場!」
周りに居た生徒達は僕を見ながら、何故か急に盛り上がり、僕が動揺している時、美桜先輩が登校してきた。
「蓮は誰を選ぶ?」
「......はい?」
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