「オルンチョ」と「right」
みなさんは、「お湯」を知っていますか?
そう。あの。
湯船にためたり、顔を温めたりするのに使う、40~50度くらいの水のことです。
という、読者を馬鹿にするふざけた書き出しから始まりますが、真面目なお話です。
英語と日本語では、同じ事象・概念でも「切り取り方」が違うということを聞いたことがあるでしょう。
「お湯」と「水」がその最たる例だと思います。英語では、両者を区別する一単語はないそうです。
お湯をあえて英語に翻訳するなればhot waterという「あたたかい水」という二単語になってしまうし、そもそもネイティブは水の温度など気にして会話しないしその必要性もあまりない、とのこと。
つまりは、「I drink a cup of water.」と突然道ばたで言われたとて、その人が、湯船に浸かり、コップに湯船からお湯を汲みそして飲むということを常日頃行なう狂人か、見ず知らず関係せず交流せずの他人に自身はお湯を常飲しているんだぞという健康志向高いアピをする狂人なのかが判別できないということです。
実際問題としては、両方狂人なので逃げるべきでしょう。
ところで「狂人」というのは、あまりよくない言葉なのか、「きょうじん」と言っても一発で変換されないので打つ度に「狂う」から「う」を消し、「人」と打って「狂人」を出力しています。
戻りまして。
由々しいとは思いませんか。
狂人(予測変換にでるようになってきました)は区別せねばなりません。
この違いは、水という資源が稲作を通して、生活と生命の危機に直接的に関わる昔の日本列島と海に囲まれたブリテン諸島で小麦という比較的水を必要としない作物を主食としていたか、という環境の差異からうまれたものであるとかないとか、という話を僕は聞きました。
同様に、フランスでは雨と一口に言ってもその雨量でかなり区別するのだそうです。
ちょっと調べたくないので調べてきてください。
このように、言語の切り取り方とはおそらくその源泉において、民族の文化暮らし方価値観を
そこで、タイトルの話に繋がります。
右とは英語でrightですが、rightには「正しい」という意味もあります。
You are right.とは通常あなたは右、ではなく、あなたは正しい、なのです。
他には、権利という(概念が近世特有の概念である、と思われるので必然的に)明らかに正しいという意味から派生したであろう意味もあります。
これだけならば、日本語の右となんら関連性のないように思われます。
しかし、韓国語あるいは朝鮮語には「오른쪽(オルンチョ)」という「右側」を意味する語があります。そしてあろうことか、この語もつづり・発音が完璧に「正しい方」と一致するのです。
朝鮮半島という中国の文化圏で生きた民族が中国語から人工的に作成したハングル、ヨーロッパ文化圏で自然発生的に生まれた英語、という語族ごと違う両者でこのような共通性が見られるのは不思議でなりません。
なぜ、ミギはタダシイのでしょうか。
そこには地球上のどこにいたとしても、どの価値観でも尊重すべき「何か」があるのではないでしょうか。
まず思ったのは太陽です。
太陽は地球上どこにいたとしても、東から上り、南の空をたどり、西へと沈んでいきます。そして、エジプトのラーや日本神話の天照大神、ギリシャ神話上のヘリオスに代表される太陽の神々からもわかるとおり、太陽というのは地上に暖かさと穀物への栄養をもたらし、夜明けたる朝を知らせ、感動をくれるありがたい、信仰すべき対象でした。
どの文化圏でも重要視されるこの太陽が昇る東こそがタダシイ方向であり、東が昔の人間にとって、ミギであることが証明できれば、太陽のいる右側が正しいという人類普遍の価値観がこの言語の共通性を見いだしていると言えそうです。
ここまで書いて、北枕と北極星が頭に浮かびました。
しかし、北枕は縁起が悪い(=南枕は縁起がいい?)とするなら、東は左になってしまい、結論に繋がらないし、位置を知らせる北極星を見て南を背にしたときも東は左側に来ますから同様の結論になってしまいます。
太陽は違いそうです。
なれば、右利きはどうでしょう。
人類の8割くらいは右利きだそうで、昔から少数派を虐げられがちであった人類の愚かさ、左利きを指す「ぎっちょ」が一部地域で差別用語に当たること、現代でも左利き用のはさみを買う等の不便を強いられていることを考慮すれば、古来左利きが魔女裁判ならぬ左利裁判にかけられ、左右で同じことをさせられ右利き界隈に精査され右利きに強制されたり、これを避けるため両利きになった者が右利きなら両方使えるようにする必要は無いと糾弾された過去もありそうです。
調べるのがめんどくさいので断定はしません。気になる方は文献を当たったりしてみてください。
昔から右利きが多数派であったため、必然的に多数派の便益を図るためミギがタダシイ方向になったのではないでしょうか。
、、、とウダウダと書きましたが、そろそろ察している通り、この話に納得できる結論も一貫した主張もありません。
正直どう締めくくればいいのか分かりません。
ただ今最も明確なこととしては、今僕がすべきことはいつの間にか迫っていた定期試験のための勉強(狂気)であり、他の心血注いでいる小説の執筆や校閲と推敲であり、雨天でもないし関係もないのに延期に延期を重ねて延期を加速させているお風呂に入ることであり、こういうのは言語学者に任せるべきでしょう。
水でもお湯でも体が洗えれば結局はwaterなのです。
風呂入ってきます。
短編集 星野屑 @mntmt
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