父のこと

煙というのには不思議な力があるらしい。

必修に挟まれた、たった15分を老い先を短くするのに使うだけの見知らぬ人と一瞬で心が通う。

ところがそこでタバコを始めた理由に、においが好きだ、となんて正直に言うと流石に大抵の人には変な目で見られる。

残りにはイキリ方がキモイとゲラゲラ笑われる。

そんな目を視界に、笑い声を耳に幼い頃大好きだった父に抱かれたような気がして安心するのだ、なんて言えるはずもない。

安心するだなんて言えばそれとなく父が死んだことを察されてしまう。

そんな流れがわかってて相手を罠るほど腐っちゃない。

目と話題を少しづつ元に戻す友人らに急いでるからと伝え最後に深く吸う。息を止める。捨てる。喫煙所をでてゆっくりと吐く。

見知らぬ人と友人になれるくらいなのだ。きっと父とも言葉をかわせるだろう。

煙というのには不思議な力があるはずだ。

香のこもったものは特に。

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