第30話

 唯哉いちかの次の恋の為に、次に好きになった人に真っ直ぐ想いを伝えられる親友のままでいて欲しいから、だから―――。

「それ、悠栖ゆず的には『思いやり』なんだろうけど、僕から言わせてもらえばただのお節介だよね」

「そ、そんなハッキリ言うなよっ」

「だって言わないと悠栖、分からないでしょ? 悠栖がしたことはうしお君のためじゃなくて、自分の理想を押し付けてるだけの『自己満足』だよ」

 間を取り成して欲しいって汐君から頼まれたわけじゃないんでしょ?

 朋喜ともきは真面目な面持ちで尋ねてくる。

 茶化しているわけでも馬鹿にしているわけでもなく、真剣に話してくれている。

 だから、並べられた言葉はキツイものばかりだったが、真摯に受け止めようと思えた。

「後、悠栖は理解してないだろうからこれも言っておくね」

「な、なに……?」

 自分の為に注意してくれているのは分かるが、そろそろキャパオーバーになりそうだ。

 悠栖は自分の浅はかさを深く反省しながらも泣きそうになってしまう。

那鳥なとり君は汐君が憎いから酷い事を言ったわけじゃないからね?」

「そ、れは、分かってる……」

「本当に? ……まぁ、悠栖にはまだ経験ないから分からないとは思うけど、『本気で好きになった人』が相手だと『優しい言葉』とか『思いやり』とかって逆に辛いんだよね。望みはないのに、『嫌い』になれないんだもん……」

 だからこの先ずっと『応えられない』ままなら、僕は那鳥君がしたように辛辣な言葉で傷つけて欲しい。

 瞳を伏せる朋喜は薄く笑い、「『嫌い』にならせて欲しいものなんだよ……」と呟いた。

「朋喜……」

「! ま、まぁ、そういうことだから、悠栖は汐君が諦めるってチャンスを潰して、汐君の為に敢えて悪者になった那鳥君の努力を無駄にしたんだよ」

「うっ……頼むから傷口に塩塗り込むのやめてくれよ……」

 オブラートが必要です。と訴える悠栖。しかし朋喜は、痛みが無いとすぐに同じ事を繰り返すでしょ? と意地悪を言ってくる。

 『そんなことない』と言い返せないところが実に辛いところだ。

「……なぁ、姫神ひめがみって案外良い奴だよな……?」

「今更何言ってるの? 汐君をとられて拗ねて目の敵にしてた悠栖以外、もうみんな知ってるよ?」

 本当に辛辣な態度をとっていたのは悠栖の方。

 那鳥はずっと自分達の事を考えてくれていた。ただちょっと言葉や態度に示すのが苦手なだけ。

 そう笑う朋喜は、悠栖が見落としていた事実まで教えてくれた。

「那鳥君が自分の意思を曲げてまであんなふうに汐君と喋ってるのは、誰の為?」

「!! そ、か……。『俺の為』、か……」

 限りなく答えに近い問いかけに、ハッとさせられた。

 一度傷つけ突き放した相手ともう一度付き合いを持つことがどれほど大変か、それは自分も知っていたから。

 もしも自分が那鳥の立場であったら、たとえ親友達に注意されても、懇願されても、自分の『思い』が無いなら二人きりで喋ることはもちろん、他の友人達を交えても言葉を交わせるか微妙なところだ。

 それなのに那鳥は自分の言葉を聞き入れ、唯哉に酷い言葉を浴びせたことを謝り、友人としてああやって付き合ってくれている。

 それはすべて、自分が――『友人が望んだから』だった。

「そ。那鳥君は悠栖の大事な人のためにああやって『酷い人』になってくれてるんだよ」

「! だから、言い方っ」

 本当に頼むからもうちょっとオブラートに包んでくれよ!

 情けないやら恥ずかしいやら嬉しいやら感情がぐちゃぐちゃになって涙ぐんでしまったから、机に突っ伏し声だけ朗らかに言い返す悠栖。

 朋喜はそんな悠栖の頭をポンポンと叩くと、「ちょっとだけ大人になったね」と茶化した。それは朋喜なりの励ましだ。

 悠栖は気づかれないように鼻を啜ると「大人になっちまった」と頬を吊り上げ自分に対して笑顔を見せた。

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