第29話
確かに態度を改めろと自分は言った。
自分の親友の人となりを勝手に決めつけて傷つけるのは止めてくれと、確かに。
だから今目の前で繰り広げられているやり取りはある意味自分が望んだ通りのモノのはずで、微笑ましい光景だと思うところのはず。
しかし、
この心情を分かりやすく形容するなら『モヤモヤしている』という言葉が一番しっくりくるだろう。
頬杖を付き、何処となくギクシャクしている感じはあれど話をしている
だが、いくら考えてもまったく思い当たることが無くて、それがまた一層陰鬱な気分にさせて負のスパイラルに嵌ってしまった気分だ。
「浮かない顔してるね」
「! なんだ、
ぼんやりしていた自覚はあったが、自席の前に座って携帯を弄っているルームメイトの姿にはさすがに驚いた。
いつの間に座っていたんだと目を丸くすれば朋喜は携帯に視線を向けたまま「酷い顔」と笑う。
それは呆けていた顔のことなのか、驚いてみせた顔のことなのか、それともそのどちらもなのかは分からない。
しかし、いずれにしても貶されていることには変わりない。
悠栖は伸びをすると自身の頬を両手で思い切り潰して「どっちが酷い顔だ?」とこちらを見ない親友に尋ねた。
すると、顔を上げる前に「どっちも」と応えた朋喜が視線を向けてくるなり吹き出した。
すまし顔と愛らしい笑顔を使い分けて『姫』という立場を最大限に活用して学園生活を謳歌している朋喜からすれば、教室で粗雑に大笑いすることも吹き出すこともご法度。
だから、すぐに咳払いで取り繕って見せるものの他に気づかれないように鬼の形相で睨んでくる。
しかしどんな恐ろしい顔で睨まれようとも、悠栖は怯まない。むしろ一泡吹かせてやったと満足げに笑っていた。
「っ―――、随分、ご機嫌だね?」
「あ、やばっ……」
してやったりとご機嫌になったのも束の間、近い距離だからこそわかる引き攣った笑顔と不自然な声色。
悠栖はすぐに朋喜を怒らせたと理解した。
理解して、すぐに不味い状況だと判断した。
それは経験測と言うよりも本能に近い直感だった。
朋喜から報復される前に目の前で両手を合わせ、ごめん! と謝る悠栖。八つ当たりだった! と。
すると朋喜は開いた口を一度閉ざし、溜め息を吐いた。
「そんなにイライラするならなんで紹介なんてしたの?」
「? 何のこと?」
「決まってるでしょ? アレの事」
何のことを言われているか分からずキョトンとしたら、朋喜は視線を自分からある方向へと送って見せた。
悠栖はその視線の先に何があるのか、誰がいるのか、見なくても分かった。
何故なら、朋喜に声を掛けられる直前まで自分が無意識に眺めていた方向だったから。
「別にあいつらにイライラしてるわけじゃ―――」
「そういう強がり、要らないから」
朋喜の言わんとしていることを否定するものの、それをまた否定された。
悠栖はグッと言葉に詰まり、でも取り繕っても無駄だと観念したのか渋々ながらも「だってさ」と口を開いた。
「チカ、『初恋』なんだぜ……? それなのにあんな振られ方したままとか、そんなのつれぇじゃん……」
「失恋なんてはっきり言われても優しく言われても傷つくし辛いモノでしょ」
「! それは、そうだけど……」
好きになった人から自分がまだ告白してもいないのに辛辣な言葉で想いを否定され拒否されたら、心の傷になるに決まってる。
そしてもしそれが初めての恋だったら、この先ずっとそれがトラウマとしてついて回るに違いない。
悠栖は、だからせめて良い思い出を作って終わりにさせてやりたかったんだと弁解する。
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