第3話『よわ兄はわからせたい』

「たのしかったか?」


「うん。楽しかった♡ よわ兄 のくせに、やるじゃない♡」


 今日はちょっとはしゃぎすぎてたな。


 結局は守衛さんから無料の貸出用の車椅子を借りてのデートだったけど、楽しんでもらえただろうか。


 できるだけ休憩を取っていたつもりだけど、そろそろ休ませないと。


 顔色も、少し優れないように見える。


「…………頬が少しほてってるけど、具合は大丈夫なのか?」


「全然、まだまだ、ちょー大丈夫! よわ兄と違って強いの。こほっこほっ」


 ……やっぱり咳、してるじゃないか。こいつはいつも……無理するから。


「おい――っ、ちょっとオデコさわるぞ」


 ……やっぱりだ。熱い。さっきから顔が赤いとは思ってたけど、こんなに。


 無理しやがって。


 いつだってそうだ、こいつは。平気なフリして、一番大事なところで我慢する。


 その震える手、隠せてないぞ。お願いだから、俺には隠すなよ……。


「ばーか。ざーこ。やめて…………オデコ、触らないで…………ぐすっ」


「おい…………っ、少し熱が出始めているじゃないか。お前は体が弱いんだから、少しでも具合が悪かったら言ってくれって約束だっただろ。ほら、吸引器を吸うんだ」


「いや…………っ、こんなのいや」


「……………………」


 まただ。こうやって、自分の弱さを見せまいと意地を張る。


 でも、その手が震えているのは、隠せてないぞ。


「わたしも普通の子みたいにもっとよわ兄と遊びたいよ。なんで…………なんでわたしだけ、こうなの? 同じ年の子みたいによわ兄と一緒にデートしたり、遊びたいよ」


「…………病気が治ったらいつでもいける。焦るな」


 ……そんな簡単な言葉で慰められるはずがないのはわかってる。


 でも、今はこう言うしかない。


「いや…………っ、だって、わたしの病気はいつ治るかわからないんだよ? よわ兄だって、いつまでわたしと一緒に居てくれるかわからない。わたし、すごく怖いっ!」


「大丈夫、俺はずっと一緒に居る。つか、俺だってお前と一緒に居たいんだぜ。お前がいないと、俺の日常も色褪せちまう」


「なんで……なんで、わたしの体は成長しないの? こんなよわよわな体じゃっ、一生、よわ兄のお嫁さんにしてもらえない……」


 ……んなことを考えていたのか。お前が一番気にしていることを、俺が気づいてやれなかったなんて。不甲斐ないな。


「大丈夫だ、心配すんな。お前さえその気があるのなら、24時間365日いつでもお前が望むタイミングで結婚してやる。焦るな、俺はお前から逃げない。つーか、これだけ一緒に居て逃げるわけないだろ? お前のいない人生なんて、考えられないんだから」


「ほんと? ほんとうに?」


「ああ、約束する。だけど……まずは、病気を治すことに専念しよう。長期戦になったって構わない。俺にも、覚悟はある。お前のそばにずっといるっていう覚悟が」


「だめだよ……だって、何十年かかるかわからない。よわ兄もそんな、待てない」


「お前の体や事情のことは、お前の両親と主治医から、だいたい聞いている。俺が美大に通ったのも家に居ながら、一緒に暮らしながら働ける職業につくためだ。アホで平凡な俺なりに考えてだした結論だ。お前を一人にはしないって決めた時からな」


「……わたし一生、子供ができない体かもしれないんだよ?」


「俺は気にしないし、その時はその時だ。それならそれで、たとえば今日みたいに二人だけでいろんなところを見てまわって暮らそう。きっと楽しい。そうだろ? お前と一緒なら、なんだって楽しいんだ」


「うん、たのしい。よわ兄が一緒なら、絶対になんでも楽しい。……うぅ……」


「ははっ。今日は素直だな、調子狂うぜ、その、いつものように遠慮すんな。もっと我儘言っていいんだぞ」


 泣き顔も、やっぱりかわいいな、なんて言ったらまた怒られるか。


 でも、こうして素直に甘えてくれるのが、一番嬉しい。


「うん。よわ兄の…………ざーこ…………ざーこ…………。でも…………わたしの、ヒーロー…………」


「ふぅ、眠ったか。こうやって寝顔をみると本当に天使みたいだな。……よく頑張ったな、今日も」


「…………すぅー…………すぅ…………」



「お前は超天才なんだからさ、ちっとくらい俺の気持ちも、わかれ。……ずっと、お前だけが大切なんだって」




 了 しゅき♡

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よわ兄はメスガキちゃんをわからせたい! くま猫 @lain1998

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