第十七夜 遺影
雛子は、学校から待機を命じられていたのにもかかわらず、奈央の部屋でおしゃべりをしていた。
誘ったのはもちろん奈央だ。
奈央にとって、雛子は自分のあの事件で出来た闇を照らしてくれるそんな存在だと思っていた。
家が近く、ついこの間友達になったばかりなのに話が合う。
会話がいつまでも続くんじゃないかと思えるほどだった。
いつか、あの事件のことも雛子に話せたら、などと考えては、
(やっぱり無理だわ)
と思い直した。
双葉や満里奈たちとLINEでやり取りをしていたが、晴矢と香織がなかなか会話に入ってこなかった。
それでも、遅れて晴矢からメッセージが来た。
「おー。悪いな。野暮用でLINE見れなかったわ」
次々と突っ込みが入る。
雄二 「勉強してたんだろ」
満里奈 「さすがお医者様になる方は少し違うわね」
奈央は、グループトークから外れて、ふざけて晴矢に、
「これからお医者さんごっこをするのであります」
とLINEで送った。
雛子は、
「奈央ちゃん、それはちょっと,,,,」
と少し牽制してみたが、奈央のおふざけは止まらなかった。
晴矢からは、何か怒ったメッセージが来るのでは、と想像していたが、実際には全く違う反応が来たのだった。
「ひなのアカウント、登録させてよ」
雛子は少しびっくりしたが、奈央に、
「奈央ちゃん、私のiPhoneから招待するからって晴矢君に言って?」
と伝えた。
雛子が、
「よろしく」
と入力すると、と胴体に「R」と大書きしてあるパンダが片手を挙げているスタンプが候補に表れたのでそれを選んで送った。
晴矢は、奈央と雛子が参加しているグループに向けて
「俺、お医者さんごっこなんてした覚えないんだけどな」
と返してきた。
それを見た雛子は、晴矢を少しからかうかのように、
「ごめんね、こんなにウケるとか思わなくて」
と返信した。
晴矢がいつも仲間のみんなの前で振る舞うように、ふざけたメッセージを返してくるのだと思っていたが、
「まあいいけどさ。一応みんなには訂正しておいて」
と、結構シリアスな返信が来たので、動揺した。
頭の中では、
「晴矢君ごめん」
と、謝罪の言葉が浮かんでは消えており、何を返答してよいかわからなくなった。
雛子は、
「うん、わかった」
と返答するのが精いっぱいだったのだ。
しかし、晴矢の次のメッセージにはもっと驚かされたし、半分パニックになりそうになったのだった。
「あのさ、ひなは弟いたよね?」
雛子は目の前がブラックアウトしそうだった。
「ひなって弟いたの?」
「ううん、いないよ?」
晴矢のメッセージには雛子は答えもせず、思い直したように、
「奈央ちゃん、私そろそろ家に帰るね。試験勉強しないといけないし」
「え、もう帰っちゃうの? でも私も勉強しないと結構やばいかも!」
「奈央ちゃんは頭よさそうだからそんなこときっとないと思うよ。あたしはマジやばいけど」
「ひなは優しいんだね」
「えー、そんなこと・・」
二人は笑った。
「じゃあ、奈央ちゃん今日はありがとう。今度はあたしの部屋にも来てくれるかなぁ?」
「うん、ひなの部屋の中をいろいろ捜索するのだ!」
「えー、やばいかも(笑)」
「じゃあ、お互いに勉強頑張ろうね。今日は何やるつもり?」
「英語かな。教科書全写し」
「何それ面倒くさそうじゃない?」
「あたしにはそれが合ってるみたいでさ、それやるのとやらないのでは点が全然違うんだよぅ」
「へー、そっか、私も真似してみようかな」
「うん、やってみて」
勉強するということで今日はお開きにすると決めた二人だが、名残惜しそうに話しつづけた。
それでも、10分もすると、雛子は
(やばい・・晴矢君にさっきの質問を返さないと)
と思い直して奈央に別れを告げ、家に戻った。
家には、誰もいなかった。
雛子は居間兼食堂の部屋に行き、晴矢あてに、
「弟なんていないよ?近所に住んでいた、幸太郎君じゃないかな。晴矢くんの三軒隣に住んでいた」
と返信した。
「晴矢君、要のことを幸太郎君と間違えてくれないかな」
と思いながら、居間の奥においてある仏壇の上に飾ってある写真に目をやった。
「
何か強い意志を感じさせる視線は、雛子が決して奈央や、ほかの仲間たちには見せない表情を形作っていた。
額に入った写真には、小さな男の子の、はにかんだ表情の愛らしい姿が写っていた。
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