第十五夜 幻
晴矢は家に着いてから、ひと風呂浴びて、溜まっているLINEに目を通した。
雄二からは、
「遊ぼうぜー」
などと呑気なメッセージが来ている。
晴矢は、
「学校から『家で待機』って言われてんだろ?」
と、怒りの表情をしたピピ美のスタンプを返した。
直ぐ雄二から返信。
「お前、ちょっとお堅くね?」
「雄二はネトゲでもやってろ。俺は勉強するし」
「ネトゲはもうやってるし飽きた。お前が勉強するとかまた台風が来るんじゃね?」
と返ってきた。
不毛だ。
晴矢はもう雄二の相手はしないことにした。
グループのトークのメッセージを次に目を通した。
満里奈「みんな、なにしてる?学校休みになってうれすぃ~♡」
雄三「決まってんだろ」
満里奈「またゲームか」
奈央 厭味ったらしく笑っているキャラクターのスタンプ
双葉 「俺は期末の試験勉強。お前らやんなくていいの?」
満里奈 顔面蒼白なキャラクターのスタンプ
奈央 「orz」
雄三 「俺はやるときはやるぜ」
しばらくそんなやり取りが続いていたが、
双葉 「そういや晴矢と香織は?」
満里奈 「どうしたんだろ」
奈央 「晴矢が絡んでこないのって珍しくない?」
雄二 「変だよね。おれも晴矢に直で送ったけど返ってきてないや」
それを見た晴矢は慌てて返信した。
晴矢「おー。悪いな。野暮用でLINE見れなかったわ」
雄二 「勉強してたんだろ」
満里奈 「さすがお医者様になる方は少し違うわね」
(ちっ、またかよ。)
晴矢は返事するのをいったん止めた。
次は奈央個人からだ。開く前はちょっと緊張する。
晴矢は、
(我ながら何を期待してるんだか)
と思った。
でも、気になる相手からのメッセージにはちょっと期待せずにはいられない。
「今ね、ひなと一緒だよ」
(そういやあいつら、家が近かったんだっけ……)
送ってきた写真には、奈央の部屋らしき背景に、二人が映っていた。
つづいて、
「これからお医者さんごっこをするのであります!」
と書いてある。
ひなのせいで、晴矢は
(そんなことした覚えはないんだけどな)
覚えているのは、泥団子つくったのを本当にひなに食べさせられそうになったってことだけだ。
あれ。
なんだっけ。
物凄い違和感がある、と晴矢は咄嗟に思った。
小学生になる前の記憶はほとんどない、と、ひなが晴矢たちのグループに合流した日にはそう話したが、泥団子のことは覚えていて…
(そうだ! あの時、一緒にもう一人小さな男の子がいたんじゃなかったか?)
ひながグループに加わった日も確かに晴矢はそう言った。
晴矢の中で今は確実な記憶に変わった。
晴矢は、
「ひなのアカウント登録させてよ」
と促した。
すると奈央から、
「今から招待するってさ」
と返ってきた。
すると程なくひなからトークが来た。
「よろしく!」
パンダが手を挙げているスタンプと一緒だった。
俺は深く考えずに、男の子についてちょっと聞いてみようと思った。
晴矢 「俺、お医者さんごっこなんてした覚えないんだけどな」
ひな 「ごめんね、こんなにウケるとか思わなくて」
晴矢 「まあいいけどさ。一応みんなには訂正しておいて」
ひな 「うん、わかった」
晴矢 「あのさ、ひなは弟いたよね?」
既読はついたが、しばらく返事は返ってこなかった。
すると奈央から
「ひなはこれから家に帰るって。勉強するらしいよ。私も頑張らないとな」
と来たので、晴矢は、
「ああ、奈央も勉強したほうがいいぜ」
と返した。
みんなは、昨晩晴矢と香織の間に何があったを知らなかったようだ。
みんなに話すべきか、
晴矢は話さずにいるべきか相当悩んだ。
「ピロン!」
LINEの着信音がした。
ひなからだった。
「弟なんていないよ? 近所に住んでいた幸太郎君じゃないかな。晴矢くんの三軒隣に住んでいた」
幸太郎君のことは覚えているさ。
でもその子は幸太郎君ではない確信があった。幸太郎君、と呼ばれる子は、一つか二つ年齢が下の男の子だったが、粗暴で仲間には入れてなかったからだ。
そのうち、この街から引っ越していった。ひなが引っ越した時期と前後しているはずだ。
それなら、一体全体、あの男の子は誰だったんだろうか、と晴矢は混乱した。
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