第59話
今日まで何度か往復したローン村の川に架かる橋を渡る。
外の空気は来た時よりもいくばくか肌寒いが、とても酔い覚ましには気持ちの良い冴えた気温だった。
これから戻って明日以降の準備だが、そもそも用意するものなんて何一つない。ほとんど着の身着のままだ。あと、メガネケースやマッチのような小物だけ。
新鮮で濃密な時間を過ごしたローン村だが、俺がまたこの村にやってくる保証はない。何せ田舎だし。
元の世界ではあっけなく電車にはねられたのだ。この世界でもいつ命運尽きるかも定かではない。この世界には危険がいっぱいだろうからなおの事だろう。
ふと空を見上げると月と星が輝いていた。
未踏の世界が上空には広がっていると思っていいはずだ。案外、元の地球も、あの延長線上の、気の遠くなる先にあったりしてな。
……ふと、俺はこれから何を成し得るのか疑問になった。
元の世界ではただ自己中心的に遊んでそれでおしまいだった。
今もさして変化はない。食って寝て、そしてこの世界についての知識を集めている。
そして明日からは、勇者様ご一行との冒険だ。
それを考えると高ぶる気持ちもあるが、最終目的である魔王やモンスター、王都の思想と、一筋縄ではいかないような世界があるのだろう。あらゆる思惑がばっこする地へと踏み込むことに、俺は何を考えているのだろうか。
……とはいえ、ずっとこの村にいるなんて訳にもいかなかったんだ。なるようになるか。好きにさせてもらおう。
そんな事を考えつつヒデヲの家まで着いて玄関の戸に触れようとした瞬間、
「――えっ!?」
「きゃっ」
勝手に戸は開き、俺の胸にいきなりチヨが飛び込んできた。
「ど、どうしたんですかチヨさん!?」
「ケ、ケンジ、さん……」
すぐさまチヨは後ずさり、その場に座り込んでしまった。
「ケンジさん助けてくださいすぐにヒデヲさんに報せないとメアが急がないと……」
「お、落ち着いてくださいチヨさん。どうしたんですか?」
俺も一緒になってしゃがみ込んで宥めると、チヨは深呼吸して気持ちを落ち着けた。
「助けてください。メアが、メアが連れていかれました」
……なんだって!?
「たった今メアを寝かしつけていたら、あの神官がやってきて、それで、それで……」
途中で言うのが辛くなったのかしゃくりあげている。
「チヨさん、大丈夫です。俺が何とかしてきますからチヨさんはうちで待っていてください!」
言うが早いか、俺はすぐさま立ち上がりその場を後にした。
月明かりに照らされた平地をひた走る。
道のりは先程までいた酒場、ではなく関所。
ローン村の唯一の出入り口だ。ここを抑えてしまえれば逃げ場はない。
それにチヨはたった今と言っていた。今追いかければ追いつける。
「許さねえぞ! 殺す!!」
俺は無我夢中に走る。
あっという間に関所まで到着したが、ここまで誰ともすれ違うことは無かった。もちろんアキラも見つけられなかった。
「誰かいるかっ!?」
関所を覗き込むが誰もいなかった。今の時間もジロウがいることになっているがその姿をみつける事は出来ない。
「ケンジこっちだ。裏にいるぞ」
突然聞こえた声にあたりをキョロキョロすると、小屋の裏の影にジロウがいた。壁にもたれかかってうずくまっている。
「大丈夫か!?」
「大丈夫かはわからねえが、生きてはいる。やってきた神官にいきなり殴られた。すぐどっかに行っちまったみたいだが、痛みで動けねえ」
「その神官は、アキラはどこにいったか判るか?」
「すぐにいなくなりやがったが、きっと外に行っちまった」
俺はちっと舌打ちをして答える。
「あいつがメアをさらいやがった」
「なに!? ぐっ……追いかけろ、今ならすぐそこにいるはずだ」
「ああ! 必ず取り返す。すまないが、ここで安静にしててくれ」
「頼んだぞ、ケンジ」
俺はジロウをその場に残して小屋の外周を迂回し、大門横の扉から村の外に出た。
俺、ケンジ。異世界でおっさん転生しちゃったンゴww しんげきのケンちゃん @shingekikentyan
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