第58話

「つまり何だ……ジュンヤは王都で勇者に認定されて魔王討伐の命を請けたトモキの後継って事か。」

「勇者ってのが本当ならそうだろう。勇者の選定は聖剣を手にすることが出来たかどうかだ。事実、トモキが手にした聖剣をジュンヤが持っていたのは昼間の件で確認済みだ。今までの話の信憑性が上がってしまった」

酒場の喧騒の中心から離れた隅っこで、俺はキョウヘイと席についている。

今までのいきさつを話し、キョウヘイは不透明だった勇者についての説明をしてくれている。なおキョウヘイも昼間の集まりにいたようで、チヨには手を出すなと杭を打たれたりもされた。しねーよそんなこと!

「これまで聖剣を手にした例は王都の建国者サイタマ以外には無いって話だったよな?」

「ああ、俺の知ってる限りは何も残されてない。つまりトモキは二代目勇者、ジュンヤが三代目勇者って事だ」

とは言え5110年前からの話だからそれすらも疑わしいのではないか、とキョウヘイは付け加える。

「『聖剣を手に取りし者が、この世に泰平をもたらす』ねえ……」

あの王都からきた神官のアキラが言っていたことだ。泰平ってところが大雑把に聞こえるがどういう意味だろうか。

「ただ、この言葉だけだと漠然としてると思うんだが。今の時世、世界では諍いが絶えないのか?」

「それは……どうだろうな。人間がモンスターに襲われるという報告はよくあることだし、人間同士の争いだってしょっちゅうあるだろう。王都は存在する魔王の討伐をもってそう定めていると思うが、泰平とは何かというのは誰も解釈できないんじゃないか? 逆にだ。今まで続いた平穏が脅かされるのを危惧した結果、新たな勇者が誕生したのかもしれない」

……何だそれ?

「危惧って、誰がだよ?」

「聖剣の出自までは分からないから何とも言えん。でもこんな話、人間じゃなくて神や世界がそう判断したのかもな」

何ともスケールのデカい話だ。神ね、モノ申したいことが沢山あるわ。もっと分かり易い世界を作っておくれよゴッド。

「ま、王都にある古い文献に書かれている知られた一節だ。他にも聖剣の特徴や当時の大戦、勇者であり建国者となってるサイタマについても記録が残っているし、それを模した物語がおとぎ話として言い伝えられている」

「へえ。キョウヘイは結構詳しいんだな」

「昔からよく聞いている話だったし、何度か王都には行ったことがあるからな。その時に色々調べてある」

どことなくゴキゲンに見えるキョウヘイ。こいつ、勇者関連の話が好きなのか? まあ男なら誰しも興味のある話題か。俺だって勇者になりたかった! 結果ただのおっさんになった。人の夢と書いて儚いんだよ!

「その文献にある聖剣についての特徴なんだが、普通の人間では振るう事が出来なくて持ち主を失った時はどういった理屈かは分からないが王都へと戻って来るとある。元の位置に突き立ち資格ある者にしか扱うことができないし真価を発揮しないそうだ。鞘は無いらしい」

流ちょうに説明してくれる。本当によく覚えてらっしゃるな。

それから、キョウヘイは一気に酒を煽って、

「つまり、トモキが生存している可能性も、期待は出来ないのだろうな……」

さっきまでのテンションは何処へやら、ふと我に返ったようでひと言呟いて視線をずらした。その視線の先を追うと、面白そうに喋るヒデヲと椅子に座らされて強引にも腕相撲をさせられているジュンヤが人だかりの隙間にちらっと見える。

曰く、現在の勇者で、トモキに並ぶらしい強者ということだ。俺そんな奴の申し出を受けたのか。尚早だったな。いや、いけると思ったんだけどな、まだガキだし。まあ俺も外見に対して精神はクソな自負があるからな。何事も先入観で捉えてはいけないということで。

にしても、俺もあんな感じに腕相撲させられてたな。懐かしいようでまだ10日程度前の出来事だけど。

「それでケンジよ、明日になったら村を出ていくのか?」

俺は正面に姿勢を戻す。

「ああ。キョウヘイにも世話になってるのに唐突ですまない」

「そんな事は気にしないでいい。一番気にしてほしいのは、全く魔力の感覚が掴めなかったことだ」

俺はハッとなって頭を勢い良く下げた。額がそれなりの音をたててテーブルにぶつかる。うがっ、やや痛い。

「本当に申し訳ない! 折角協力してもらったのに何の成果もあげられなかった。すまない」

「別にいいさ。ただ、これからのケンジの旅は危険が付きまとう。記憶の方はどうだ? 何か思い出せたのなら僥倖なんだが」

「いや、そっちもからっきしだ」

さらっと嘘をつく。これについては説明し辛くて大差ないだろうからな。

「そうか。これからの足しになれば良かったのにな。とにかく」

喋りながらキョウヘイは立ち上がる。

「気をつけろよ。村の外には色んな危険がある。本当にヤバいと思ったら一目散に逃げろよ?」

「ああ。心配してくれてありがとうな」

「……それじゃあ、俺は帰る。達者でなケンジ。またいつか会おう」

「じゃあな。またいつか」

最後に軽い挨拶をして、キョウヘイは酒場を去っていった。

……俺も、退散するか。あの騒ぎに首を突っ込む気にはならないからな。

俺も立ち上がったところで、

「ケンジ! どうだお前もジュンヤと腕相撲してくか?」

ヒデヲから遠巻きに声を掛けられる。人だかりによって姿はよく見えないが、俺は声を投げかける。

「いや、いい。明日から何度も顔突き合わすんだ。何も今日でなくていいさ」

ガヤガヤした酒場内だったが声は届いたようで返事がくる。

「そうかそうか。それで、キョウヘイはどうした?」

「今帰ったところだぞ。俺も帰るつもりだ。先帰ってるからな」

「おう分かった。俺はまだいるから先帰って寝ちまってくれ。おいジュンヤ! 次は誰とやるんだ?」

「まだやらされんのかよ。いつになったら終わるんだ」

……ジュンヤもきっとうろんな目をして腕相撲で圧勝しているのだろうな。想像がつく。そこかしこで、流石に勇者様にゃ勝てなかったぞとか、こりゃもしかしたらヒデヲより強いかもな、なんて言ってる奴らが何人もいる。ご苦労なこった。

「ヒデヲ」

「おう、どうしたケンジ!」

「……ありがとうな」

なんだか無性に今言っておくべきな気がして、俺は礼を述べておいた。

「がっはっはっ、何、いいってことよ!」

ヒデヲの声は弾んでいた。相変わらずの騒がしさだった。

「さて、帰って寝るか。明日は明日の風が吹くってな」

俺は楽天的にひとりごちて酒場の喧騒を後にした。

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