第51話
東地区の診療所を通り過ぎたあたりで、チヨとメアを見つけた。
「おーい、チヨさー、ん?」
遠くから声をかけようとしたのだが、チヨは誰かと話していた。
全身が白を基調とした見慣れない風貌で、年はおよそ今の俺と同じ位なおっさん――司祭なのだろうか。とりあえず俺の知っている人物ではないことは明らかだった。
遠巻きに窺っているとチヨが強い剣幕で相手に何かまくし立てているようだった。
これまでの生活の中であんな表情は見たためしが無かった俺は少し動揺した。
いつも穏やかに接してくれるチヨとはまるで別人のような様子だが、足にくっついているメアの後頭部を両の手で覆い隠して必死の様子であるチヨを見ていると、気が気でない想いが伝播してくるようだった。
「ああ? うるさいですね! いつまでも御託を並べるんじゃないですよこのアマがあっ!」
「――ッ!!」
だが、チヨの訴えを意に介さなかったようで、白装束のおっさんは突然に腕を振りかぶって叩こうとした。
「きゃっ!?」
チヨが悲鳴を上げるが、俺は素早く駆け込み男の腕を掴んで止めた。
「……なあアンタ、一体どういう了見でチヨさんを殴ろうとした?」
「あん? ……おや、てっきりヒデヲ様かと思いましたが、知らない顔ですね。どなたですか?」
「あっ、ケンジおじさん! ままー! ケンジおじさん!」
チヨの足元では事態を察しているのかいないのか、メアがいつもの元気な声をあげた。
「何、俺はただの居候だ。だが、わりぃが見逃せないな。」
そのまま掴んでいた腕を引っ張り、男との立ち位置を入れ替える。チヨとメアを背後に護るようにして男と向かい合った。
「ほう、居候のケンジさんですか。ワタクシは王都サイタマより参りましたアキラと申します。以後、お見知りおきを」
アキラと名乗った男は浅くお辞儀をする。
おいおい今から丁寧に振る舞われても第一印象最悪だぞ分かってるのか?
初見の印象は容易には覆らねえんだよ。
しかもよりによってチヨに手をあげるだと?
穏やかになれる訳ねえ常日頃どれだけお世話になってると思ってるんだよああん?
「お前の話を聴く義理はない。とっとと王都に帰れ」
「左様ですね。ワタクシも一刻も早くこんな辺ぴな村からは退散したい所存ですよ。ですので、ご理解いただきたいところです、チヨ様」
「……ケンジさん、その人は、メアを王都に連れていこうとしてるんです」
俺の背後のチヨが答える。遠巻きに見ていた時の威勢はそがれていたが、
「……チヨさん、それは納得できることですか?」
「いいえ。私は、ヒデヲさんも絶対、そんな事は納得出来ません。お断りです」
強くそう断言した。
「だそうだ。アキラとやら、悪いけどアンタはこのまま手ぶらで帰ってもらえないか?」
俺がそう促したところで業を煮やしたのか、
「そうはいかないんですよ貴方たちいいいいいいいいいいいい」
アキラは唐突に絶叫した。
「分かっておいででしょう? メア様の可能性を! 絶対に将来、今は亡きトモキ様をも超える存在となりましょう! ですが、ですが! このような村で何も知らずに育ってしまってはそれもまた夢物語となる! それはあってはならない! 我々人間が存続していくためにトモキ様を上回ってもらわねば!」
「……どういうことかはわからないが、お前もトモキ絡みでやってきたっつうことか。それがメアとどう繋がる? そもそも、トモキはこの村にはもういないぞ」
「ええ、承知の通りですとも。何せ聖剣を手に旅立ったトモキ様が消息を絶った報せをこの村にもたらしたのは、ワタクシなのですから」
「はあ?」
俺は調子はずれな声をあげる。
「その人の言ってる事は本当です。私は、その人と会うのは3度目で、1年ほど前に会った時に、そう告げられました」
チヨが俺の背後で補足してくれた。
「そう、そうなのですよ! トモキ様は亡くなられた! あれほどの逸材でも魔王を打倒するに適わなかった。信じられないが我々はそう結論付けたのです。だから一刻も早く次なる希望が必要なのですよ。その可能性がメア様なのです!」
アキラは叫びながらメアを指さした。
「待てよ、どうしてそうなるんだ。それにトモキが死んだって明確な証拠はあるのか?」
俺は話についていけそうになく問う。
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