第52話
「ふむ……愚民め。説明いたしましょう。いいですか、トモキ様はある日王都サイタマに在りし聖剣を抜いたのです。今まで誰も引き抜くことの出来なかった聖剣を、です。そして、王都にお告げとしてこう語り継がれております。『聖剣を手に取りし者が、この世に泰平をもたらす』と」
……はあ? またそんなファンタジーな言い伝えがあるのかよ。
つかトモキそんな事までしてたのか。
この世界広そうだが、トモキはもう全土を網羅してるんだろうな。
「そして我々は彼に、目下の最大脅威である魔王の討伐を依頼しました。確かに、トモキ様は一騎当千の実力者。人類最強と謳っても過言では無かった。数人の旅の連れを携え、意気揚々と旅立たれましたよ。しかし!」
アキラの声が更に力を帯びる。
「信じられないことに! ある日王都に聖剣は戻ってきてしまった! きっと持ち主を失った聖剣は、あり得ないことに幽玄の間を伝って元の場所に舞い戻ってしまったのです! そうとしか説明出来ない! そして、帰還したトモキ様の同行者たちも、トモキ様の消息は分からないと唱えました! ですからこう結論付けるしかないのです。我らが勇者と称えたトモキ様は、もう死んだのだと!」
……つまり何だ? 聖剣を抜き、王都ですら最強と思っていたトモキは、魔王討伐に行った結果亡くなったってのか?
俺は軽く驚いたが、トモキのネームバリューの凄まじさや、魔王という存在も既に、というかこの世界で目覚めた初日にヒデヲに聞かされていたので、あくまで軽くで済んだ。
「そんなの、信じません! トモキは、絶対に生きています。絶対に……」
チヨが感情的になる。先ほどよりも覇気はそがれていたが想いは伝わってくる。
そうだ、ローン村の皆が、トモキの生存を信じている。
それが揺らぐことなんてない。
「……ああ、俺も、トモキに会ったことは無いが、そう信じるようにしてるんだ。アンタら王都の見解なんてしったこっちゃねえよ」
「ですがそう考える他ないのですよ。話を戻しましょう」
アキラは一息ついて落ち着き払った態度になった。
「メア様が必要な理由ですが、我々人間が魔王を討伐することは絶対命題なのです。
何せ、昨今はモンスターによる被害報告があまりに多いのです。特に、大陸北方。南方に位置するこの村には関与しないやもしれませんが、そう悠長に構えてはいられないのです。いつ我々が危機に瀕するか分かったものではありません。ですから!」
またもアキラは声高々になった。
「トモキ様と同じ境遇、秘めたる可能性をお持ちのメア様に、人類を将来導いてもらうのです! 必ず聖剣に選ばれるでしょう。役不足となることは必定でしょう。それが王都の総意なのです!」
アキラは両腕を広げて断言した。まるで悪役のような態度だ。
……いや、俺やチヨの内心ではアキラは、ひいては王都は、俺たちの敵と捉えてしかるべきだ。
何と言われようと、俺の考えは決まっていたのだ。
「なるほど、話は分かった。だがな」
俺は息を大きく吸って、吐き捨てる。
「お前たちの都合でメアを連れていかせるわけねえだろが!」
「……ご納得いきませんか」
「ああ、譲らねえよ。モンスターの討伐くらい、自前でどうにかしやがれ。こんな幼子を親から引き離す理由にはならねえ」
「ならば、少々強引になるしかありませんな。どうにも、貴方たちには効き目も薄いようですし。痛い目を見てもらうとしましょうかね。ビルド」
アキラの雰囲気が殺気立つ。
だが俺も腹をくくる意思はあった。
「腕っぷしで無理やりに連れていくか? 言っとくが俺は全力でメアを守るぞ。指一本触れさせやしねぇ。それに俺だけじゃねえ、ヒデヲやジロウやキョウヘイ……ローン村総出でだ」
成り行きと言ってしまえばそれまでかもしれないが、ここで気張らなきゃ男が廃る!
意見の相違なんてよくあることだ。ああ、世話になった恩を返すって名目でも不足はないだろ?
一触即発の空気となった中、
「面白いことになってるじゃねえかよ王都の、アキラだったっけ?」
俺たちの間を割って入るように、新たな人物からの声が掛けられた。
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