第49話

「ままー! なにかうのー?」

「そうねぇ。メアは何が食べたい?」

「んとね、んとねー、おこのみやき!」

「うふふ。それじゃあ、キャベツをいただいて帰ろうかしらね」

「おっこのみやきー!」


メアは嬉しそうにニコニコしてはしゃいでいます。

今は、この娘の笑顔が何にも代えられない宝物です。

遠い昔、息子のトモキも、こうやってすくすく育ったものです。


「おにーちゃん、きょうはかえってくる?」

「わからないわね。でも、きっともうすぐ帰ってくる。すぐ会える」

私は優しくメアの頭を撫でてあげます。

「えへへー、たのしみー」


今はもうしばらく会うことは出来ていません。

それを、私たちは悲しんでないと言えばウソになりますが、絶対に無事だと、私も、ヒデヲさんも、メアも、信じています。

トモキは今も何処かで息災のはずです。


「ままー、ケンジおじさんは、おこのみやきすき?」

「ふふ、どうかしら。ケンジさん、何でも美味しそうに食べますからね。メアは、ケンジおじさん好き?」

「すきー!」


ケンジさんはメアにも凄く懐かれています。


「ままー、おこのみやきって、メアもできるの?」

「あら、作ってみたいの?」

「うんっ!」

「それじゃあ、おうちでふたりでたくさん作りましょうね。くるーっとひっくり返すのよ」

「くるー! くるっぽー!」


両腕で大きく万歳をしてメアが喜びます。


「ふふふっ」

「ケンジおじさん、よろこぶ?」

「ええ、きっと喜んでくれるわ。がんばりましょうね」

「きゃははー、がんばるー」


つい先日まで凄く泣き虫だったり、おままごとや絵本を手にしているけれど、最近は少しませてきたような気がします。子の成長は早いものですね。

特にケンジさんと仲良くしているこの数日間で顕著な気がします。

外的要因に影響されているのでしょうか。よく分かりませんが、母親としては娘が健やかに育っていくのは嬉しいです。


あの方が村にやってきて早いもので10日が経ちました。

生活の幅は広がっていると思います。記憶が無いことが幸いしているのでしょうか、ケンジさんは何事にも挑戦的です。ヒデヲさんの仕事を率先して手伝ってくれたり、魔法についてキョウヘイさんに習っているというお話も聞きました。

ケンジさんと、ヒデヲさん、それとキョウヘイさんはとても馬が合うそうで、ヒデヲさんも毎日楽しそうにケンジさんと接しています。

それが見ていてとても微笑ましいです。

なんだかんだ言っていても、ヒデヲさんもトモキについて引っかかるものがあるのだと思います。先刻はアルくんとユミちゃんの件もありましたので心配でしたが、杞憂かと思います。


ジロウさんは気が気でないかもしれませんが、私たち親は、子供の成長を純粋に喜ぶべきだと、自他共に言い聞かせてしかるものなのでしょう。

第一、皆もう大人ですから。私たちが子離れできないといけないでしょうね。

何度か食卓で楽しそうにその日の成果をお話ししてくれるヒデヲさんやケンジさんはとても楽しそうです。

ですが時折、ケンジさんの表情に翳りが差す事があります。

時間がある時は村の外に出向いているとも聞きます。

それらが私を不安にさせます。

昔の、物心ついた旺盛なトモキと重なって見えることも頻繁です。何か思い出したとかなら良いのですけど、これから先ケンジさんがどのようにするおつもりなのか……その身を案じずにはいられません。

……なんて、私がケンジさんの心配をしても仕方がありませんけれど。

まして手のかかる子供という訳ではありませんから。

ただ私たち家族はケンジさんの事を好ましく思っていますので、漠然としてますが何か力になってあげられたらいいなと思っているのです。


「メア、疲れてない?」

「だいじょうぶだよままー」

「もうちょっとで着くからね。ゆっくりお買い物しましょう」

「うんっ」


お家から村の中心地まではそれなりに距離があり、移動は徒歩に限定されるのですが、言うほど苦という訳ではありません。

聞けば、他所の町には大雨や雪というものが降ったり、あまりにも暑かったり寒かったりする地域もあるのだそうですが、この村は私が生まれてからこの方、そのような生活に困る環境に変化したことはありません。

毎日程よい日差しと風がローン村を象徴しているかのようでとても心地よいです。

そうして、お買い物のために村の中心地まであと少しのところまでメアとやって来て、突然声をかけられたのでした。

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