第33話
それから俺は何をするでもなく大人しく窓から村を眺めたり、アルから借りてモンスター図鑑を眺めたりしていた。
モンスター図鑑はひらがな、カタカナ、漢字で構成されていた。つまり日本語だ。
ご都合的展開ですまん。
普通に読むことが可能だったし、多くのモンスターが図解されている。
これからの参考になるだろうと一通り目に通して、その後もすることが無くてもう何度かぱらぱら捲って頭に入れておいた。
おいおいドラゴンのページもある。本当にいるんだな……。
アルが説明してくれたリミットレス・ウルフのページも確かに存在していた。
内容はアルがかいつまんで説明してくれた通りだった。
あの容姿や記載の通りだとすれば、おそらく本来は夜行性なのではないだろうか。
暗がりで群れを成し襲われたらこちらの抵抗する間も無く餌食となっていただろう。マジ助かってよかった。
ちなみに、俺がくつろいでいる間、アルとユミは俺と同じ部屋で談笑していた。
やっぱデキてんな、ちっ、瀬戸内海に沈め。
やがて日が沈んで暗くなってきた頃合いで、ユミが部屋の中央に立ち、小声で何かを唱えたと思ったら、途端に室内が明るくなった。
どうやら壁にかけてあるロウソクに火を付けたようだ。
今のも魔法だろうか。
「あー、なあユミよ、お前さんは魔法で火がつけられるのか?」
おれはおずおずと訊いてみる。
「はい、簡単な火の魔法なら扱えます」
「すごいな。俺はどうやらその手の才能は無いらしいからな」
「えっ、そんな事は無いんじゃないです?」
ユミの反応はこちらの予想していた反応とは違っていた。
「ケンジさんからかなり魔力を感じ取れますので、てっきり魔法を生業にしているのかと思ってました」
……どうも、前職は社会人です。こんな俺でも社会の歯車になれる!
みんな、辛いことがあっても希望はあるさ、強く生きようぜ。恨むべきは月曜日!
「ユミ、ケンジさんは記憶が無いらしいんだ」
アルが補足してくれる。
「そうなのですね。……私もそれほど達者なわけではありませんが、ケンジさんの魔力は相当なものだと思いますよ。私やアルより遥かに膨大な魔力が秘められてると思います」
何だか以前アルから言われたよりも過大評価されていないだろうか。
ユミの方が魔力の扱いに長けていて、その分正確な分析がされているとか?
「そうだったのか。だが、扱い方が分からなくてな」
「そうですね、自身の体内の魔力を掴むことが出来るというのが初歩です」
「アルも同じこと言ってたな……」
アルへと視線を向けるがこちらに気づいて目を背けられた。ばつが悪いのか?
「じゃあ、ちょっくらやってみるわ」
「はい」
俺はベッドに座ったまま目を閉じ、自分の内面を意識する。
今日一日の出来事が脳裏をよぎるが、いったん置いといて頭の中を真っ白に。
それから自分の心臓の鼓動を感じる。
伸縮している。全身の血が通っているのを感じる。
そのまま静かに待つ。
体内の本流を辿っては外れ、また沿ってたゆたい、落ち着く。身体を何度も巡る。
すると途中で流れが変わった。今までは安らか。それから先は、荒々しく。
急激に加速する。引き延ばされる。全体に満ちて染まっていく。
その奔流に意識が沈みそうになっていく寸前――
「おいケンジ! 大丈夫か?」
声にはっとして俺は目をカッと見開いた。
肩に何かが触れているのを感じておずおずと横を確認する。
そこにはヒデヲがいた。
「おうおう、肩で息してんじゃねえか。平気か?」
指摘されて俺は息を荒立てていることに気づいた。
「大丈夫だ。なんか、もう少しで意識が離れるところだったというか……」
説明はできないが、結構上々な傾向だったのだろうか?
だが、もしヒデヲが俺の肩を揺らさずにいたら、あの先にはなにが・・・・
ひとまず息を整えた。
「で、ヒデヲは一体どうしてここに?」
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