第31話
「祝勝会するか!」
お通夜ムードに我慢の限界を迎えたのか、ヒデヲがそう切り出した。
他の皆はきょとんとしている。当然だ何を言い出すこのおっさん。
「おっさんは考える担当じゃないんだ。頭を使えるのは若者の特権としてくれ、だっはっはっはっはっ。」
キョウヘイはやれやれといった様子で目をつむる。
多分だけど、キョウヘイは昔からヒデヲに振り回されているんだろうな。
心中お察し申し上げまするまる。
あとその理論でいけば俺はおっさんだ。アルよ、後は任せたぞ。
「ケンジが村に来てから、まだしっかりもてなしてないからな。歓迎会兼祝勝会だ!」
ヒデヲは親指を立ててニカッと笑う。
「何もそんなことまでしなくても……」
「さあ、そうと決まれば急がなくちゃな。今から酒場行って、それから村中で声かけてくるわ。メア、いくぞっ。」
「いっくぞー!」
言いたいことだけ言ってヒデヲはメアを抱きかかえて飛び出し、何処かに行ってしまった。本当にもうケガは問題ないようだったな。
「……ったく」
キョウヘイも悪態をつきながらも立ち上がる。
「・・・すまないケンジ。大目に見てやってくれ。アイツは豪快だが情に厚い。」
「それはこれまでの短い時間でもヒシヒシと感じてるよ。」
俺とキョウヘイの視線が交差する。堅物な印象があるが、キョウヘイも随分と優しいおっさんだな。こいつが俺のことをどう思っているかは未知数だが。
「……で、お前はちゃんと安静にしてろ。 俺はヒデヲと行ってくる。アルとユミはケンジの様子を見ててくれ」
「はいっ、分かりましたキョウヘイさん」
「ええ、ですがこちらの方の容態はどこも悪いところはございませんでしたよ?」
「それでもだ。何かあれば俺が苦労する。任せた。それと、その梨は好きにしろ」
最後にそう言って、キョウヘイもヒデヲを追って部屋から出て行った。
「ぁはは……気を遣わせてしまいましたかね」
アルが弱弱しく笑う。
「こういった不安な時、不幸があった時、いつもヒデヲさんは皆を励ますんです。トモキが消息不明だって話を聞かされた時も、ヒデヲさんは誰よりも笑って皆に元気を与えていました。立派な大人って、ああいう人の事なんですよ」
アルの表情には翳りが窺えた。
「アルだって、咄嗟に俺を助けてくれたんだろ? あの時、何が起こったか分からなかったけど、お前が行動してくれたから俺は生きてる。ありがとうな」
「……いえ、僕なんて、ただケンジさんの後ろに隠れていただけですよ。本当に、敵いません」
「そこはー、ほら、人生経験の差ってやつだ。もちっと大人を頼ったって、誰も文句はないだろ」
「僕だってもう大人ですよ。それに……どうでしょう。僕がしっかりしないとっていつも考えるのに、上手くいかない事ばかりで。トモキだったら、もっとそつなく解決してしまうんだろうなって思うと、やりきれなくて……」
「そりゃ、俺はトモキの事は知らねえけどさ、背負い込みすぎだ。比べる相手が間違ってるぞ」
「……そう、なのかもですね。でも、ずっと一緒にいたんです。比べるなと言う方が、無理があります」
アルはうつむく。
そうだな。おそらく一緒に村で育ってきたであろうふたりを比べるなとは、言うことは出来ても不可能なのだろう。
一緒に遊び、学んで、成長してきたのだ。
方やその才覚を発揮し皆に慕われ、もう一方はその雄姿をまざまざと見せられる。
劣等感を抱くのは止めろというのは、それこそ酷な話だ。
俺だったら絶対いじめ倒してやるね!
ああ間違いない電気あんまとかかましてやったね!
「アルは、立派に頑張っていますよ」
アルの隣でユミが呟く。
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