第24話
「あの斧は、僕も持てないんです……」
アルは少し気落ちした声色で言う。
「割りと小ぶりな斧なのですけどね。
持ち上げるのがやっとで。
トモキには、この斧が自在に振れたら、連れてってやると、言われたんですけど」
悔しそうに歯を食いしばるアル。
「だっはっはっ、アル、気楽にいこうぜ!」
「……えぇ、ええ、そうですね。きっと僕があの斧を持てたとしても結局はトモキの足手まといでしかなかった筈です。今頃トモキが何をしているのかは知る由も無いですが、僕たちは皆トモキの事を信じて帰りを待ちわびているんです。
僕も、ヒデヲさんも、村の皆も」
「おうその通りだアル。どっかでケロっとしてんだよ! 何せ、俺の息子だからな、がっはっはっ」
「……ははっ、ヒデヲさん本当にそれ!当てにならないですね、はははっ」
「「「あははー! がっはっはー!」」」
ヒデヲとアルが笑う。つられてメアも笑う。
今、ここにはいないトモキを想って。
「さあまだまだ草刈りは残ってる。再開するぞ!メアはまた大人しくしてるんだぞ」
ヒデヲは立ち上がり、メアの頭を一度撫でてから先ほどの藪へと戻っていっく。
キョウヘイが目線でこちらを促しつつその後を無言でついていく。
「はいっ、がんばりましょう!」
立ち上がって駆けだそうとするアルに声をかける。
「なぁ、アル。アルにとってのトモキって、どんな奴だったんだ?」
やはり、トモキという存在は、この村では大層な偉人のように感じた。
まだほんの少しの関りしかない村の住人たちにとって、
どれほどトモキという人物が大事だったかが伝わってくる。
キョウヘイだけは何を考えているのかイマイチわからないが。
少しでも、知っておきたいと。俺はそう感じた。
「そうですね。……なんでも出来る、幼馴染ですよ。
本当に、比べるのはバカみたいですよ。
武術も魔力の操作も秀でて、優しく、皆のためにがんばれるヤツでした、ええ……。
だから、絶対に帰ってきますよ、トモキは」
アルは俺の目を見る。
穏やかに風が吹き抜ける。ざざーという草の音が耳朶を打った。
俺もアルも、何も言葉を出さずに、ただただ間が空き視線が交錯した。
やがて、照れ臭くなったのか、真剣なまなざしを背けて、
「それじゃ、お弁当の片づけはお願いしますね。先に行ってます!」
アルは仕事へ戻るために次こそ駆け出していった。
あんな良いやつが幼馴染で両親にも恵まれて…トモキは何してるんだ畜生!
俺が瀬戸内海に沈めてやるぞこの野郎!
…俺都内から出た事今までなかったけどな
「あっ!弁当の片づけさらっと押し付けられたぞ! しょーがねぇなやるかぁ」
「メアもお手伝いするー」
「メアありがとな」
やはり天使だった。
メアと一緒に急ぎ早に片付ける。
「さぁーて俺も行くか!」
「しごとー! がんばれー!」
メアが俺の足に抱き着いて騒ぐ。
俺はその場で息を大きく吸って、吐いた。
…………さて、仕事に戻るか。
俺もしゃがみ込んでメアの頭を撫でる。
それから鎌を持ちようやく戻る準備完了といったところで、その遠吠えは響いた。
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