第22話

保管庫の前でヒデヲが桶を脇に抱えて俺たちを待っていた。


「アル、水を出してくれ!」

「はいー、わかりました。」


ヒデヲがその場に座り込み、桶を置く。

駆け足でアルがやってくると、立ったまま桶に対して水平に手のひらを向けた。


「アクア・ストリーム!」


そう詠唱された次の瞬間、アルの手から大量の水が発生しそのまま重力に従って落下していく。


「おう、助かるぜアル! さすがだなっ」


すぐさまあふれそうなほどに水が桶に溜まる。

ヒデヲはそこに両手を突っ込み手を洗い始めた。


「まてまてまて! アルは今どこから水を出したんだ!?」


俺は食い気味に訊ねた。


「えと、普通に魔法を使っただけなんですが……」

「魔法! 今のが魔法か!?」


俺はその勢いのままアルの両肩をつかみぐわんぐわん揺さぶる。


「すげえな! そんなことも出来るのか。どうやったんだ教えてくれ!」

「うわああああ、ちょっと待って、止めてください! 落ち着いてくださいー」

「出せるのは水だけなのか!? 他には何が出来んだ? やってみてくれ!」

「アクア・スフィア!」


アルが叫んだ直後、アルの手に小さな水の塊が出現した。

それがどんどん大きさを増し、バスケットボール程度の大きさになった。

アルはその水球をこちらに押し付けるかのように手のひらをこちらに向けた後、


「スプラッシュ!」


目をつぶって唱えた。

瞬間、俺とアルの間でその水の球体が炸裂した。

うおっ、俺にだけ水が飛び散ってずぶ濡れになったぞ!?

唐突の事に驚き、よろめきながら座り込む。


「落ち着いていただけましたか?」

「ああ、よくわかんねえけどすげえな」

「そうですか。ありがとうございます。でもそんなに興奮するほどの事では無いと思うのですけど」

「自由に水を操れるなんてすげえじゃねえか! ノーベル賞ものだぞ」

「えと、何を言っているのかわからないのですけど」

「とにかく初めて見たんだよ魔法を! 」

「初めてって絶対ありえないと思うのですが……」

「あぁ、アルよ。ケンジはな、昨日起きてからこれまでの事を全く覚えてないらしい。なんで村の外にいたのかとか、今まで何してたとか、さっぱりなんだそうだ」


ヒデヲが補足してくれた。

気が付けば、ヒデヲの傍にキョウヘイもいて、先程の桶で手を洗っていた。


「ということは、魔法については何も知らないもしくは覚えていないということですか?」

「ああ、まったく知らない」


俺は素直にアルの疑問に答える。


「ま、俺も全然わかってないがな、だっはっはっ」


ヒデヲがいつものように大仰に笑う。


「それじゃあお昼がてら、少し説明しますよ」

「おおおおー頼む!」

「おう、昼飯にするか」


保管庫近くの机には既に昼食の準備がしてあった。


「こっちー用意したよー」

「メア、用意してくれたのか。ありがとな。」


ヒデヲに続きメアのいる机へ向かう。

朝にも見ていたが、中身は段になった重箱のようなケースが並べられている。

それとは別にいくつかおにぎりもあった。

おっ、待ちに待ったお米だ!


「おー米米ぇーいただきます!」


俺は即座におにぎりに手を伸ばし口にほおばる。

見知らぬ世界に来ても、お米が食べれるこの幸せよ。

やはり日本人はお米と一緒に育ってきたな、ビバ、お米!


「ケンジさん、興味の移りようが早くないです……?」

「そんなことはない。これは発作みたいなものなんだ。そんなことはいいから頼む、説明してくれ」


皆でチヨお手製のお弁当を囲んで座る。

最後に来たアルが説明を始める。

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