第21話
それにしても……異世界か。
で、俺には何か異能とか無いのだろうか?
なんていうか、定番だよな。
チート級のアビリティを手にして転生先の世界で無双するって!
強敵をばったばったとなぎ倒し富と名声を欲しいままにするようなやつ!
ええやん一生遊んで暮らせるやん!
……とか思ったが、現実として今の俺はおっさん。特別な力は感じない。
強いて言えば、視力が上がったり疲れにくくなった程度だ。
老いと健康的な身体が与えられし能力だなんて、不憫すぎる。
いや、まだ俺には隠された能力があるかもしれない。
今後の伸びしろを信じよう!
すでにおっさんだから全盛期過ぎたけど!
考えてむなしくなりながらも、自身の髭をなぞった。
「んっりゃああああああせいッ! ふうー」
一息ついて身体を起こし正面を見ると、ヒデヲの後ろ姿が見えた。
丁度振り返ってこちらにやってくるようだ。
随分遠くにいるけど、姿が見えるってことは大分草刈り進んでるとは思うが・・・
実はまだまだ終わってないとか許さんぞ言い出しっぺめ。
ヒデヲの背中を見かけて家の前での一件を思い出す。
背中で語るおっさんのをかっこよさよ。
不安などおくびにも出さず、確たる自信を持った佇まい。
俺も自分の振る舞いを正せば、あんな感じの男前になれるだろうか。
中身はまだまだ未熟な20代だが、外見はおっさんなのだ。
運良く顔面偏差値は悪くないと思う。
だから後は自身の努力次第だ。
まず気になってしまうと聞かずにはいられない所とか、絶対直さなくてはならない。目指すは紳士、相手を見極め落ち着きはらって冷静に状況判断できる存在。
良き紳士になれるよう努めていこう、うむ。
後は、口調もより紳士に心掛けてみるか。
粗雑な口調では好感を持たれまい。
いっそ一人称も併せて変えてみようか。
僕? 私? 自分? 拙者とかどうだ?
オーサムラーイ、スシテンプーラ違うな。
吾輩とかは? んー、どこの閣下だ? もうちょい穏やかな感じにしたいな。
ひとまずそれでいってみるか。
そんな今後の立ち振る舞いを考えていたら、ヒデヲがすぐ傍までやってきていた。
「おいケンジ、そろそろ昼飯だ。メアのいるところに戻るぞ」
とりあえず頭の中で即座に組み立てた言葉で応対しようと試みる。
それがし、それがし……。
「
ヒデヲは頭上に?マークが出たかのようにきょとんとした後、ハッとした。
「どうしたどうした!もしかして思い出したか!?」
「す、すまん。そういうわけじゃないんだ。」
「なんだなんだあ? 熱でもあんのか? 頭がやられちまったか? だっはっはっ」
そう笑い飛ばして俺が切り開いた藪跡を辿っていった。
…………そうか、そう思われるのか。どっちしろ無理そうだわ。他人に気を遣うとか性に合わなすぎる。社交的とか腐り果ててしまえ。ダストシュートだクソッ!
「おーいお前ら! 早く戻ってこい! 昼にするぞー!」
「了解です。」
「・・・・ああ。」
気付けば遠くにいたヒデヲに急かされて、俺は慌てて保管庫前まで戻るのだった。
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