第19話

ただの簡単な草刈り、そう思っていた時期が俺にもあったんだぜ。

そう、ただ草を刈るだけという作業がどれほど手間のかかる事か。

元の世界では草刈り機とかを使って一気に刈り取るだろうけど、ここは完全手動だ。

これ、実は拷問の類か?なにがすぐなんとかなるだヒデヲ!


とにかく刈る。手を動かし草を刈り続ける。

時になんとなくしゃらくさくて引っこ抜く。

そしてまた刈る。その繰り返し


「ふう…しかしこれは地味にきついな」


ついぼやいてしまう。心までおっさんに浸食されてきたか。

時間を忘れて作業に没頭する。

日差しの下だが幸い炎天下というわけでは無く、程よい風も流れてきている。

穏やかな春のような気候だから、ほんのちょっと汗ばむ程度だ。

あまり疲れはやってこない。


やっぱりこの身体になって前より身軽で力強くなったと思う。


にしてもこれは、道のり遠くないか……。

ふと顔を上げた先にはかろうじてキョウヘイが見えた。

……おい、休んでるんじゃねえ。全然進んでねえだろうが。働け!

内心で毒づく。


キョウヘイは目が合うとやれやれといった感じで鎌を構えて藪の中へ入って行った。

いや、俺だってサボりたい。

だがな、昨日から色々お世話になりっぱなしな上にまだまだ異世界手探り中なんだ。

今は額に汗して働くしかねえんだよわかったかこん無気力中年!


「だっはっはっ! こりゃ大変だぜ! ケンジ気張ってくれよ!」


ヒデヲが元気な声を上げてくる、聞こえた方からはバッサバッサとすごい勢いで草を刈るような音がする。エネルギー有り余りすぎだろって気はする。


こうなりゃヤケだ。

根性論はとっくに卒業したつもりだがこうも体を動かすと内に燃えるものがあるじゃねぇかファック!!


「おう!まかせとけ!!」

「いい気合じゃねえか!頼んだぜ!!」


やけくそ気味に声を張り上げてやり取りを終え、手を動かす。

草を刈りつつ進んでいるとブゥーンという低い音が聞こえてきた。

音のする方へ行ってみるとアルの背中が見えた。


「おーいアル!進捗どうだ!」

「ケンジさん、ん〜進捗ダメです。僕の魔力程度じゃ大して進んでいませんよ。」

「んん〜・・・・ってマジか!」


周りを見渡すと既に結構な範囲が綺麗に刈られている。

恐らく引っこ抜かれたであろう小さな木まで転がっている。


「僕じゃコレぽっちの出力しか出ませんから。」


そう言うと手刀にした手を出してきた。

僅かに光を放つ手刀はブゥーンという低周波音を出していた。


「これが魔力ってやつか!道具を持って行かなかったのはこういうことか。すげぇ」

「全然スゴくなんてないです。僕なんてトモキに比べれば微塵子みたいなもんです。」

おお!本格ファンタジーキター!実際に目の前で見るとホントすげぇな俺も出来ないんかあれ!チクショーなんかさっきからテンションたけぇな俺!


「どうせ僕なんて僕なんて・・・・・」


あれ、なんかアルがぶつぶつ1人で言い出し始めたぞ。

よし、なんか面倒くさそうだ。自分の作業に戻ろう。


「じゃ、アル!まぁ草刈り頑張ろうぜ!」


自分の持ち場に戻り再び作業に没頭する。


…………。


草刈り開始から2時間は経過しただろうか、体は未だ疲れを感じさせない。

機械的に手は動かしつつも、先程の出来事を思い返す。


さっき見たアルの手刀は恐らく魔力を操れると出来るのだろう。魔法とは違うのか?

この辺全部焼いてくれれば一瞬で片付く話な気がするんだが、やらないということは出来ないのだろう。詳しくアルに聞いてみたいところだが魔力関連の話をするとまたさっきみたいにブツクサとマイナス思考劣等生モードに入り込んでしまいそうだな。

余計なことを聞かなかければ熱心にやってたし、まだ若いのに偉いじゃないか。

いや、こういうのはもっと俺が老けて御隠居になってから言いたい。

アルはおそらく元の世界の俺よりも若いだろうしな。


さあ働け! 

馬車馬の如く働け! 

お前の代わりなんていくらでもいるのだ!

社会に貢献せよ身を粉にして尽くしてみろー! 


……いやこの集落まだ若者はアルしか見てないから、代わりとかいないのかもしれないし、アル結構有能っぽい。

大志を抱け青年…。


そして幾多の理不尽にさらされながらも立派なおっさんになっていけよ。


…俺は一瞬でおっさんになったがな。

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