第18話
箱の中には小さいシャベルやら鎌が入っていた。
「ヒデヲ、今日は稲刈りするって事か!?」
「だから違うって言ってるだろ。ほれ、あっちを見てみろ」
ヒデヲの指さす方に視線を向けると、先ほど辿ってきたあぜ道の反対に藪がある。
「つまり俺たちが今からする仕事ってのは」
「刈払いだ」
これは、地味だが意外とキツイやつだな。
「こっちでも農作物を作ろうってことでな。開墾の手始めというわけだ。
なーに、切り倒さないといけないような大きな木は無いし、4人でがんばりゃすぐなんとかなるさ」
「この辺に木が無くて木材がまとまってあるのは、そこの斧で全部切倒したのか?」
「いんや木材の方は、この建物を建てたのが割と最近でな、この辺の木材とかはその時の残りだ。村の男共総出で気張ったもんよ。
この辺に木が無いのは、むかーしトモキがそこの斧で全部なぎ倒したからさ。ほんと、よくやってくれたよ」
言いながらもヒデヲは倒れている斧に手を添える。
「この斧はな、とにかく重たくてな。トモキ以外には今んところ誰もまともに振るえた試しがねえ。重すぎて動かすのも一苦労だからずっとこのままだ。ったくよ」
ヒデヲは忌々しそうにつぶやいて、僅かに浮かせた斧を離した。
至るところで出てくるなトモキ。
この村巡ってるとトモキの武勇伝いくらでも出てきそうだな。
「ヒデヲさーん、お待たせしましたー!」
唐突なヒデヲを呼ぶ声に振り返ると、ふたりの人物がこちらに向かって来ていた。
「おう、アル! 俺たちも今来たところだから大丈夫だぞ」
ヒデヲが気軽に声を返す。
アルと呼ばれた青年は、律儀に一礼する。
「ケンジ、紹介しよう。こいつはアルだ。さっき関所で会ったジロウの息子だ」
「関所に寄ってきたんですか?」
「ああそうだ。アルは今日遅番か?」
「はい。今日の刈払いが終わってからになります。」
「そうかそうか、大変だろうががんばってくれ。そんで、こっちはケンジだ。
ほら、昨日村ん外で倒れてたやつよ。どうしてあんなとこにいたとか、なんも覚えてないらしいから、力になってやってくれ」
「お役に立てるかわかりませんが……僕なんて全然、弱っちいヤツですし」
「んなことはねえ。いいかケンジ、アルは魔力を扱えるんだ。俺たちからすればすげえもんさ、だっはっはっ」
「扱えるって言ったって少しですよ少し」
気前良くヒデヲが笑いながら俺とアルの背中を叩く。痛いぞこん男前おやじ!
「ケンジだ、よろしく頼む」
「はい、アルと申します。こちらこそよろしくお願いします」
ふたりで軽い挨拶を交わした。
「で、あっちがキョウヘイだ。俺やジロウとは、幼馴染ってやつだな。無口な奴だがいつも手伝ってくれる頼れるやつだ」
「ふんっ」
キョウヘイと紹介されたおじさんは、腕を組み保管庫に背中を預けていた。そっぽを向いてこちらにはあまり視線を向けようとしない。仏頂面だ。
まさに、無愛想THEぶっきらぼう!
「よろしく、ケンジだ」
「……ああ」
とりあえず最低限の挨拶は成立した・・・かな。
なんともコミュニケーションを取りづらい。
「さ、それじゃあ昼にする前にいっちょやるぞ!」
「「「おー!」」」
「じゃあ、メアはおとなしくしてろよ。いってくるからな」
「がんばれー!」
ヒデヲが鎌を手に取り、掛け声とともに藪へと向かっていく。
その後をアルがついていく。
積まれた丸太の上に座っているメアは手を振った後、ポーチから折り紙を取出している。
「……ふんっ」
キョウヘイも手に鎌を持ち歩いて行った。
さーて、俺も頑張るか。鎌を手に後を追っていった。
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