第22話 生徒会選挙前の悲劇

「今週の最下位は残念、羊座のあなた。思った通りに物事が進まずイライラしてしまうかも。赤い食べ物を口にすれば一気に良い方向に」


ここでテレビを切ったのは別に俺が最下位を取ったからでは無い。運動会が終わり、土日を挟んでまた学校に登校しなければならないからだ。優衣は俺を起こしてご飯を作り置きし、先に学校に行ってしまった。


学校に到着してから席に着くまで、いつもは全く見向きもされないのだが、今日は周りからたくさんの視線を感じた。運動会の影響だろう。予想はしていた。だが、これに関しては時間の経過が何とかしてくれるだろう。


到着してからまだ少し朝のホームルームまでは時間があったので読書しようとすると優衣と色瀬の声が聞こえてきた。


「え、生徒会選挙に立候補するの?」


「うん。推薦でも有利になるっていうのもあるんだけど、やっぱりもっとこの学校をいい学校に変えていきたいからね!」


この話を聞いて、色瀬が生徒会に所属していたのを思い出した。


「空が生徒会長だったら絶対学校も良くなると思う!私も応援するね!」


「ありがとう!それでね優衣に頼みたいことがあって。応援演説やってくれない?」


「えぇー!それは全然いいけど、私でいいの!?」


「もう優衣は適任だよ!優衣に頼む以外のプランは考えてないよ!」


「分かった!私も頑張るね!選挙は確か、3週間後だよね!」


「そうだよ!それでねスケジュールなんだけど....」


ここで、俺は意識を本に戻した。生徒会長は色瀬でいいと思うし、優衣も応援演説には最適の人材だ。

どちらも学内の人気は高く、もう決まったなと思った。


~~~


次の日。学校に着くと俺のクラスはざわついていた。話す相手が居ない俺はクラスの会話に耳を傾けることにした。


「あの、噂聞いたか?」


「聞いた!色瀬さんパパ活してるんでしょ?...意外だよねー。」


「え、俺は万引きする所を見たって聞いたぜ!?」


「まじかよ!?」


どうなっているんだ。多分だが色瀬 空という人間はそんな事をする人物ではない。3つ子の妹を愛し、学校に入れ替われで高校生活を体験させるといった優しさを持つ人物だ。


それとも俺の評価が間違っていたのか。


そこに色瀬と優衣が一緒に登校してきた。

クラスに静寂が訪れた。

「え?どうしちゃったの?みんな?」

優衣は少し困ったような表情をしていた。


「.......色瀬、あの噂本当か?」


松葉杖をついている高西が静寂を破った。


そこから色瀬が教室を飛び出すまでの時間はそう長くはなかった。


優衣は少し戸惑ったがすぐに色瀬を追いかけて行った。


20分後、顔面蒼白の優衣だけが教室に帰ってきた。


色瀬は放課後まで教室に姿を出すことはなかった。


今日は1人で帰って。そう優衣からメッセージが来た。


教室から帰ろうとすると隣の2年2組から出てきた男子生徒とぶつかった。


悪い。というと相手はそれを無視してこんな事を聞いてきた。


「色瀬空は今日あれから学校に来たか?」


「いや、来なかった。」


「そうか。」


その顔は真顔なのか微笑みなのか分からない、まるでモナ・リザのような表情をしていた。


~~~


優衣からメッセージがきたのは夜11時だった。


「家行ってもいい?」


今日は俺がご飯を作る当番だったのだが、優衣は食べに来なかった。


いいぞ。それと悪いが、母さん達から貰ったマカロンも持ってきてくれ。と返事すると5分後に俺の家の玄関が開いた。

開口一番に優衣は、


「空はあんな事はしない。」


「俺もそう思う。」


「.......どうしてあんなデマが。」


「もしかしたら生徒会選挙が関係してるのかもな。」


「.......連.......助けて。」


「あぁ。.....俺は色瀬のような奴がつく優しい嘘は好きだが、.......人を傷つける嘘は嫌いなんだ。」


「.......ありがとう。」


優衣が抱きついてきた。俺が抱きしめ返すと優衣は元の姿勢に戻った。俺は恥ずかしくなり話をずらした。


「ところで、マカロンあと何個ある?」


「友達にあげちゃってあと1個しかないの。ごめんね。」


そう言って優衣はマカロンを取り出した。


俺はもしかしたらと思ったが、こんなことがあるのかと少し心の中で笑ってしまった。優衣からそれを受け取ると、よく味わって食べた。そして、こう言った。


「一気に形勢逆転といこうか。」

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