第16話 運動会と表舞台

運動会本番は天気予報と真逆の快晴で、校長もすごく喜んでいた。開会式が終わり、競技が始まった。最初の競技は全員参加の百メートル競走だ。特に自分が走るまではやる事はないので、競技を見て、知っている生徒が最初に出てきたのは二年女子の色瀬空だった。良い天気なのでかなりボーッと見ていたので順番が、二年女子までいったことに気づかなかった。彼女は運動神経も良いらしく軽快な走りで一位を獲得した。

それを見終わると俺は優衣を探していた。確か、昨日聞いた話によると、もう少しで出番が来るはずである。すると、予想通り優衣の姿が見えた。優衣も俺を探していたのか、キョロキョロ当たりを見回していた。そして、俺を見つけ笑顔でこちらに小さく手を振ってきた。誰かが見ている様子も無かったので、俺も小さく手を振った。もし、優衣が手を振ったことに気づいても、流石にこの距離で相手が俺だと気づいた人はいなかったと思う。

多分、優衣も一位を取る事ができると思う。というか、今までの運動会で二位以下をとった所を見た事が無い。スタートラインに立つ優衣の顔からも自信を読みとる事ができる。パンッ、という大きな音で一斉に走り始めた。やはり優衣は速かった。ぐんぐんと後方と差をつけている。しかし、隣のレーンを走る女子も速く油断できない展開となった。アクシデントはいつも突然起こる。五十メートルを過ぎた所で優衣の後ろを追いかけていた隣のレーンの女子がつまづいて転んだのだ。

周りから少し、動揺する声と同情する声が上がった。しかし、その瞬間もう一人止まった人がいた。優衣だった。他の選手は止まった二人を見て驚いてはいたが、そのまま走っていった。優衣は転んだ彼女の所まで近づいた手を差し伸べたのだ。その手を転んだ彼女も取り、立ち上がった。不幸中の幸いで、歩く事は出来る様で、一緒に二人で歩いてゴールした。盛大な拍手はしばらく止むことを知らないようだった。俺はビデオの録画を止めた。彼女の両親から密かに頼まれていたのだ。優衣の両親は優衣のことを超がつくほど大好きなのだ。この映像は優衣の両親から見れば一位よりも嬉しいと思う。彼女になぜ言わずに撮っているかというと昔のとある出来事が関係しているのだがそれはまた別の話。

そろそろ二年生の男子百メートルの時間が近づいていた。正直俺は三位くらいを取るつもりだった。それが目立ちにくいと思ったからである。でも、優衣が得点を捨ててまで人を支える事を選んだのだ。その姿勢と優衣が取れる好きだった得点の事を考え、俺は一位を取る事に決めた。

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